ギャングスターの泰西名画コレクション2012/06/29 03:57

エドワード・G・ロビンソンをご存知だろうか。 私は名前は覚えていたが、 顔はジェームズ・キャグニーほど、はっきりしなかった。 ハリウッド映画の ギャング役スター、短躯にだみ声、ふてぶてしい悪役向けの人相で、ギャング 映画には欠かせない存在だった。 40歳近くなって、マーヴィン・ルロイのギ ャング映画『犯罪王リコ』で売り出し、ビリー・ワイルダーの『深夜の告白』 の調査員、ジョン・ヒューストンの『キー・ラーゴ』の極悪ギャングのボス、 セシル・B・デミルの『十戒』、ノーマン・ジュイソンの『シンシナティ・キッ ド』でスティーブ・マックイーンの向うを張る老ギャンブラーなど、貴重な脇 役だった。 50年の俳優生活で、101本の映画に出演し、1973(昭和48)年 1月26日に79歳で亡くなっている。 実は、ご本人は役柄に似ず、8か国語 を操るインテリで、絵画のコレクターであった。 以上は、ほぼ「ウィキペデ ィア」による。

 25日の「等々力短信」第1036号「絵の楽しみと、真贋の鑑定」に、本の名 だけ挙げた長谷川徳七さんの『私が惚れて買った絵―セザンヌ・モネ・ピカソ ……』(日動出版)を読むと、日動画廊の輸入した絵画の中で、「ロビンソン・ コレクション」が重要な位置を占めていることがわかる。 その「ロビンソン・ コレクション」こそ、エドワード・G・ロビンソンのコレクションなのであっ た。 1973(昭和48)年2月に亡くなったと、長谷川さんは書いているが、 その春、ロビンソンの収集した印象派とその前後の充実したコレクションの競 売が、ロサンゼルスであった。 全コレクションの一括購入が条件だったので、 クノードラー・ギャラリーと組んで引き受け作品を決め、落札した。 日動画 廊が手に入れたのは、『私が惚れて買った絵』に図版と解説のある、ピサロ〈ポ ン=ヌフ〉、ドガ〈浴槽の女〉、ヴュイヤール〈アトリエの裸婦〉、ルオー〈若い 道化〉〈田舎の法廷〉、デュフィ〈エプソム、ダービーの行進〉、モディリアーニ 〈セルジエ氏の肖像〉など、粒揃いの名画ばかり17点だった。 その年は第 一次オイル・ショックの年で、一時は日本で売れるか心配したが、良質の作品 だったので、1点を除いて、全部売れてしまったという。 その大半は、広島 銀行に納まり、ひろしま美術館誕生の基礎となった。 1点というのは、小さ いこともあり、長谷川さんが記念に手元にとっておいたルオーの〈若い道化〉 だった。 今回、調べてみたが、ルオーの〈田舎の法廷〉だけは、所蔵の美術 館がわからなかった。

 広島銀行、ひろしま美術館は、日動画廊のよいお得意さんのようで、亡くな った井藤勲雄頭取がピカソの〈酒場の二人の女〉を「背中に歴史がある」とす っかり気に入ったり、娘のパロマ・ピカソの持っていた〈仔羊を連れたポール、 画家の息子、二歳〉を売りたくないというのを、パリで井藤さんがパロマと会 食していた縁もあって、購入できたという話もある。  ひろしま美術館の誇る泰西名画の数々は、ハリウッドのギャングスターの 「眼」力に由来していたのである。

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