権太楼「宗論」のマクラ ― 2013/12/06 06:34
「おめでとう」、紫綬褒章の権太楼に声がかかった。 11月13日、皇居に行 って参りました。 初めて入ったので、あちこち見てやろうとすると、宮内庁 だか何だか、お役人が厳しい、そっちを向いちゃあいけません、とか言う。 ま るで「妾馬」の八五郎だ。 噺家なんてのは、天皇陛下に手紙を渡すかもしれ ないと思っているんでしょう。 渡しません。 山本太郎はおかしいでしょう、 園遊会で、長嶋茂雄さんも、由紀さおりもいたのに、天皇陛下に手紙を渡した。 手紙なら、由紀さおりでしょう。
膝がガタガタするような威厳があった。 その話をしてもいいかしら。 9 月20日すぎに、文科省か文化庁かのエライ人から電話があって、紫綬褒章を 受けるかどうか、内諾を、と。 ありがとうございます、頂けるものなら、何 でも頂きます。 10月に閣議で正式に決定され、11月にマスコミに発表し報 道されることになるから、それまでは内密に。 ペラペラしゃべると取り消し になることもある。 奥様も皇居にご同伴、身分証明とか話があるというので、 かみさんに電話をかわった。 はい、私は絶対にしゃべりません、ウチの人は おしゃべりですけれど、と言っている。 だが、電話を切ったとたん、呉服屋 に電話した、着物こしらえなくっちゃ。 来春、小権太が東三楼になる真打昇 進襲名披露パーティーがあって、その着物はつくっているんだけれど、そんな のは、どうでもいい。 天皇陛下が、私に会いに来いって。 呉服屋は飛んで 来て、椿山荘の呉服の展示会へ連れて行った。 こういうのでなければ、宮中 には入れませんよ。 云っちゃあ駄目よ、ここだけの話。 帯も、これはいか がですか。 美智子さんは、気に入ってくれるかしら。 全部に、知れ渡っち ゃった。 佐藤さんという、皆さんはご存知ないでしょうが、かみさんの飲み 友達がいまして、大山の居酒屋は全部知っている。 10月初め、外で会ったら、 「どーも、このたびはおめでとうございます」。
今、国会でもめてますね。 特定秘密保護法案。 あれが出来たら、一番初 めにウチのかかあが捕まるでしょうね。 ウチのかかあが主犯で、佐藤さんも 共犯。 処刑されるでしょう、それを狙っている。
作家の北方謙三さんも、紫綬褒章でご一緒だった。 北方さんには、数年前 にナベサダ渡辺貞夫のライブに呼ばれて行った時にお会いしたことがあった。 広尾でフルコース、いろいろお偉いさんが見えている会で、名刺をもらったが、 私は棟方志功と読んでしまった。 先日、青森の大泊に仕事で行きました、先 生の作品は好きです、なんて話をした。 帰って、かみさんに今日棟方志功に 会ったと言ったら、会う訳ないでしょ、とっくに死んでる。 名刺をよく見た ら、北方謙三さん。 その節は、失礼しました、って挨拶した。
「宗論」にどうやって、入るのか。 ライブ情報、2月に「鰍沢」を出す。 あれも、ご宗旨の噺、かぶるんで、避けているんですが…。 突然ながら、「番 頭さん!」。
権太楼「宗論」本篇 ― 2013/12/07 06:26
番頭さん! 実に弱ったもんだな。 倅のことだよ、この忙しいのに、教会 かどこかに行って、うなされている。 でも女遊びや、博打でない、ご宗旨の ことですから、余りお咎めのないように。 ウチにはれっきとした浄土真宗と いうご宗旨がある。 叱言を言うから、番頭さん、留め立てしないように、大 学なんて出さなきゃあ、よかった。
貞吉かい、倅が戻ったのか。 好太郎が、お父様、只今帰りました、と手を 出す。 何だ、それは。 西洋の、握手の礼というものです。 お前はどうい う料簡なんだ、今日は何日だと思っているんだ、この忙しい時に。 心よりお 詫び申し上げます、関西よりセブン・イレブンという牧師様が見えられたので す。 何だ、年中おでんを売っているような名前だな、ヘソ教の牧師か。 ヘ ソ教でなく、ヤソ教です。 ヘとヤでは、偉大なる相違があります。 ヘマに 登るのではなく、ヤマに登る。 飛んでいるのは、ヤリコプターでなく、ヘリ コプター。
ウチには浄土真宗というご宗旨がある。 私も以前は偶像物を信じていたの でございます。 有難い阿弥陀如来様に、何ということを言うのだ、ナムアミ ダ、ナムアミダ。 われわれの天の神様は、造り主です、私をお造り下さった。 お前は、わたしと死んだ婆さんが造ったのだ。 それじゃあ、天の神様との三 角関係になってしまう。 主イエス・キリストは、清き処女マリアの腹に、聖 霊の力によって宿られた処女懐胎だと、明治学院大学で教わりました。 馬鹿 を言え、清き処女が懐胎するんなら、白百合のまわりは子供だらけになる。 哀 れなる人民には、ことごとく、天からパンが降り、肉が降り、野菜が降り…。 腹下しか。 お父様、目覚めて下さい。 讃美歌312番…、(歌い始める)♪ いーつくしみ深かーき友なるエスはぁーー、あーあ、かあさんとただ二人、栗 の実煮てまぁーす、いろりばた。 どこから「里の秋」になったんだ。
主よ、罪深き父を許し給え、アーメン。 何が、ラーメンだ。 お父様、ア とラでは、偉大なる相違があります。 ラメリカ大陸ではない、「マラ嫌だ」と は言わない。 馬鹿、馬鹿、馬鹿。 権助が出て来て、宗論はどちら負けても 釈迦の恥と申します。 お前も真宗か。 おら、奥州でがす。
志ん輔の「猫の忠信」前半 ― 2013/12/08 07:35
志ん朝十三回忌、志ん生没後四十年の年だったのに、力不足で何も出来ない うちに終わる。 二人とも、稽古を熱心にやっていた。 前座の頃、みんなで 麻雀をやっていて、二階で師匠が稽古をしている。 これじゃあ追いつくわけ ないよ、それ、当り。 易きに流れる、やってる方が異常という空気になる。
10月1日が志ん朝の命日で墓参りに行き、お姉さんの美津子さん、ご健在で 90歳ぐらい、住職夫妻と4人で話をした。 お姉さんが、日暮里でデートしよ うといい、喫茶店のルノワールに行く。 コーヒーを飲み終わると、昆布茶が 出る。 それを飲むと、また昆布茶。 とても安いのよ。 最初から出してく れればいいのに…。 志ん生も稽古好きで、よく諏訪神社の裏のベンチでやっ ていた。 崖の下には、いろんな電車が通る。 大きな声を出してもいい。
昔は稽古屋がいっぱいあった。 女の子が行儀をしつけてもらう。 大きな 男が行く稽古屋もあり、経師屋連(女師匠を張りに行く)なんてのがいた。 女 師匠が若くて美人、独身。 次郎が稽古屋へ行こうというと、六さんがよしな よ、と。 若い者頭の、弁慶橋の常兄ィが、師匠にしなだれかかっているのを、 節穴から覗いて、この目で見て来たという。
二人で覗きに行く。 どうぞ一献と、よろしくやっていて、刺身を口から口 へ、口移し。 あそこの姐さんは、焼餅やきだから、事の顛末を話しに行こう ということになる。 六さん、次郎さんじゃないの、上がんなさいよ。 姐さ んがこうして、兄ィのおさらいの着物を仕立てているその最中に、向うでは、 あれだから。 何よ、はっきり言ってちょうだいよ。 お師匠さんと、真っ昼 間から、これこれで。 くやしい、よく教えてくれました。 で、それは何時 のこと? 今、見て、すぐ来た。 あ、そう、ご苦労さん。 ちょいと、友達 だったら、友達らしくしたらどうなの、ウチの人は昨夜から風邪引いて、奥で 寝てるよ。 向うで、うじゃじゃけているのを、二人で見て来たんだ。
起きて来た常吉が、羽織を出させ、行こうか、俺を見に行こうか。 この前、 髪結床の親爺も、変なことを言っていた。 三人で覗くと、なるほど、中に常 吉がいた。 両方に俺がいる、ここにいる俺はいったい誰なんだ、粗忽長屋み たいなことを言っている。
志ん輔の「猫の忠信」後半 ― 2013/12/09 06:34
狐狸妖怪にちがいない。 コーリヨウカンか。 あいつの耳を引っ張って「ピ クピクだぁー」と言え、俺が飛び込んでひっぱたく。 押えんのは、誰? お 前だよ。 えー、ごめんなさいよ。 六さんと、次郎さんじゃないの。 中の 常さんが(こもった声で)「よく来たな」。 どーも、こんちは。 奥へ来て、 飲めよ。 わっちたちは、この辺がいい、壁がいい、ヤモリ年なんで。 次郎 さん、酒好きだろ。 馬の小便かもしれないよ。 これ、酒だよね。 本物の、 旨え酒だ。
兄ィ、ご返杯、と言って、手をつかんで、耳を引っ張って「ピクピクだぁー」。 飛び込んだ本物、俺は吉野屋の常吉、ヨシツネだ、お前は何者だ、言わねえか。 (笛 藤舎推峰、打方 望月太津之の鳴り物入り、芝居がかりで)「申します、申 します、頃は村上天皇の御代、ピーーッ、山城、大和の二国に田畑を荒らす大 鼠が出た。 易を立てると、「雌猫の生き皮で製したる三味線、初音の三味線を 弾けば、大鼠は退散する」と出た。 その雌猫はわたくしの母親、お国の為と は言え、子猫の私は泣いて暮らしておりました。 ピーーッ、母恋しさに尋ね 歩き、たもたもたも、探しあてたるわたくしの母親が、あれあれあれ、あれに 掛かりしあの三味線、わたくしはあの三味線の子でございます。」
大きな猫だよ。 兄ィ、今度のおさらいは大当たりだね。 『千本桜』の掛 け合いだろう。 これで全て役者が揃った。 兄ィが弁慶橋の吉野屋の常さん で、義経。 猫がただ酒を飲んだから、猫のただのむ(忠信)。 あっしが駿河 屋次郎吉で、駿河の次郎。 こいつは亀屋六兵衛で亀井の六郎。 肝心の静御 前がいねえじゃないか。 ちょうど師匠が文字静だから静御前。 あたしみた いなお多福に、静が似合うものかね。 すると、猫が「ニャアウ」。
ネルソン・マンデラさん亡くなる ― 2013/12/10 06:34
5日、南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ元大統領が、95歳で亡くなっ た。 今日10日はヨハネスブルクのスタジアムで追悼式、15日には故郷の東 ケープ州クヌ村で葬儀が行われるという。 27年間、悪名高いロベン島などで の獄中生活を耐え続けた、不倒不屈の精神を想う。 釈放された時は71歳だ った。 何か身近に、見て来たように感じたのは、前に映画で観たからだった。 その時、書いたものを引く。
『インビクタス 負けざる者たち』を観て<小人閑居日記 2010. 2.3.>
ネルソン・マンデラ(1918~)、南アフリカ共和国の反アパルトヘイト運動 の指導者。 27年間のロベン島での獄中生活ののち、1990年デクラーク大統 領率いる政権によって釈放。 94年、初の全人種による選挙で、初の黒人大統 領となった。 95年、その南アフリカで開催されたラグビーのワールドカップ で、前評判が最悪だった南ア代表チームは初出場で快進撃をつづけ、初優勝を 果たした。 『インビクタス 負けざる者たち』は、クリント・イーストウッド 監督が、その実話を映画にしたもの。 マンデラ(モーガン・フリーマン)の 「インビクタス(征服されない)」「私が我が運命の支配者、我が魂の指揮官」 という不屈の精神、「恨みや復讐からは何も生まれない」“One country, One team”という寛容の信念は、南ア代表チーム(黒人はたった一人だけ)のキャ プテン・ピナール(マット・デイモン)に伝わり、奇跡が起きる。 人種の壁 を越え、南アフリカ共和国は一つの国にまとまるのだ。 感動的な、清々しい 映画だった。
映画を観ながら、クリント・イーストウッドの次回作が、その後ろに映って いるのを感じた。 2011年、グァンタナモの収容所を出獄したヨハネ・リョウ マ・フセインが、国連で演説、そのマハトマ・ガンジーとマザー・テレサを合 わせたような人格、アメリカに恨みを持たない和解と、諦めなければ“One world, One government”が実現可能だと説いたのが、世界中の感動を呼ぶ。 IT技術を駆使した全地球民投票の結果、新国連たる世界連邦事務総長となり、 拒否権のある常任理事国を廃止、戦争のない平和で平等な世界が実現する。 オ バマはアメリカ支部長、プーチンはロシア支部長、胡錦涛は中国支部長、鳩山 由紀夫は日本支部長となった。 そうして世界が栄えた、めでたし、めでたし。
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