新春浅草歌舞伎『毛抜』『義経千本桜』2016/01/11 06:28

 5日、チケットを頂いたので、新春浅草歌舞伎の第2部を観て来た。 春と 秋、友人がチェロを弾く上野浅草フィルを聴きに来る浅草公会堂である。 ま ず初春で賑わう観音様をお参りする。 上山せんべい、セキネしゅうまい、観 音裏に足を延ばして、小桜かりんとを求める。 同期の小桜の社長と、新年の 挨拶を交わす。

 新春浅草歌舞伎3時開演の第2部、冒頭、お年玉「年始ご挨拶」に、中村国 生(くにお)が登場、口上を述べる。 中村橋之助の長男、二十歳になったと いう。 今年は10月に橋之助が八代目芝翫を、国生が橋之助を、二人の弟、 宗生が福之助、宜生が歌之助を、四人揃って襲名することになっている。 国 生は、それを言って拍手をもらったあと、これからやる狂言の物語を説明した。

 『歌舞伎十八番の内 毛抜』一幕と、『義経千本桜』「川連法眼館の場」一幕 である。 『毛抜』は、お家騒動をバックに、粂寺弾正が錦の前の髪が逆立つ 奇病を、毛抜や小柄(こづか)の立ち上がるのを見て、磁石の仕業と見破り、 悪家老の陰謀を暴く、歌舞伎十八番の演目だ。 寛保2(1742)年大坂佐渡島 座の『雷神(なるかみ)不動北山桜』で初演されたというから、江戸中期の桜 町天皇朝、すでに磁石についての科学的知識は普及していたわけだ。 袖に看 板の出ている坂東巳之助(昨年亡くなった三津五郎の長男)が主役の粂寺弾正、 中村錦之助が小野春道、お年玉の中村国生が小野春風、中村隼人(錦之助の長 男)が秦民部、中村米吉(歌六の長男)が秦秀太郎、坂東新悟(弥十郎の長男) が腰元巻絹、中村鶴松が錦の前、中村橋吾が八剣玄蕃を演じた。 錦之助に見 守られた若手連中が、一生懸命に勤めて、活気溢れる新春らしいお目出たい舞 台となった。 若手に対して「大和屋!」「萬屋!」「播磨屋!」と、かなりベ テランらしい、ゆったりとした声がかかる。 それにしても、上階から観てい たら、裏方が扱う磁石や小柄、悪役・八剣玄蕃が斬られて飛んだ首の、カラク リが丸見えで可笑しく、もうちょっと何とかならないのかと、思ってしまう。

 『義経千本桜』は、最近よくテレビで見る尾上松也が佐藤忠信実ハ源九郎狐 を演じて大活躍、中村隼人の源義経、坂東新悟の静御前、中村国生の駿河次郎、 坂東巳之助の亀井六郎だ。 佐藤忠信に化けた狐の子が、「初音の鼓」の皮とな った親を恋い慕い、兄頼朝に見捨てられた義経が狐の情愛に心を動かされる。  その物語は、落語の「初音の鼓」で承知していた。

 柳家喬太郎の落語だと、こうなる。 道具屋が掘り出しものの「初音の鼓」 を殿様の所に売りに来る。 殿様が鼓を打つと、前後忘却した道具屋に、狐が 乗り移って「こん」と鳴く。 値はいくらだ、百両、求めよう、三太夫を呼ん で来いとなる。 道具屋は、三太夫に三十両で口裏あわせを頼む。 そちも悪 よのう、素面(しらふ)ではできないと、冷で一杯ひっかけた三太夫も「こん」 と鳴く。 殿様は道具屋に、今度はそちが試してみよ、と鳴り物は不調法だと いうのに無理強いする。 道具屋は、追いつめられた。 「よー、ぽん」、殿様 が「こん」。 三百両と言えばよかった、と道具屋。 さらに、どんでん返し。  払われた代金は、一両だった。 尋ねると、「余と三太夫の鳴き賃が差っ引いて ある」。