水仙を見に新宿御苑へ2017/02/01 06:30

 一週間ほど前、新宿御苑に水仙を見に行った。 家内が、行きたいと言った のだ。 家内は水仙が好きで、わが猫額庭にも植えたことがあったが、私の管 理が悪くて、次の年に花が咲かなかったり、球根を掘り出して、どっかへ行っ てしまったりした、過去のひっかかりがあった。 東横線が副都心線の新宿三 丁目へ直行するので、新宿御苑が便利になった。 新宿門のインフォメーショ ンセンターで、地図に水仙のある場所に赤い印をつけてもらった。 左手へ進 んだ芝生の手前に、白い一帯があって、最初の水仙だ。 全体に白いペーパー ホワイトという品種が圧倒的に多く、黄色い副花冠のある日本水仙は少ない。  外来種が優勢なのか、あるいは、日本水仙が早く咲くので、行ったのが時期的 に遅かったのかと思ったが、後で再び案内の人に聞いたら、もともと日本水仙 が少ないのだそうだ。 水仙の間の地面に、黄色いフクジュソウがちらりと顔 を出している。 ロウバイは見頃だが、梅はまだ蕾だった。

 さらに進むと、イギリス風景式庭園のケヤキの近くと、下の池に下りるあた りにも、水仙の群落がある。 どちらもペーパーホワイトがほとんどだ。  新宿御苑は素晴らしい。 枯れた芝生を踏んで歩きながら、能書きを並べる。  大温室のところでは、昔は福羽苺というのが、いいイチゴだった、ここで「天 皇の料理番」の上司だった福羽逸人がつくった、と。 フランス式整形庭園の プラタナスの並木の裸の姿もいい。 原節子の映画に出て来た、と。

 新宿で食事というと、福羽苺や原節子を知っているような人間は、つい、カ リーの中村屋になる。 中村屋サロン美術館も出来た新しいビルになってから は、初めてだが…。 8階のダイニングレストランGrannaでランチ、天井が 高くて明るくなった。 白髪の一団は、早稲田のクラス会だろうか。 私は軍 鶏のコールマンカリー、家内は野菜カリーにする。 流石に大満足の味だった。

柳家喬の字の「動物園の虎」2017/02/02 06:33

 1月30日は、第583回の落語研究会、私にとっては今年の初席だった。

「動物園の虎」     柳家 喬の字

「鼓ヶ滝」       三遊亭 歌奴

「雪とん」       入船亭 扇辰

       仲入

「羽織の遊び」     柳亭 左龍

「三軒長屋」      柳亭 市馬

 柳家喬の字は、さん喬の弟子。 グリーンの着物に、茶の袴。 「の字」と つく噺家はただ一人なので、覚えてもらいたい、と。 落語は、講談とくらべ られるが、落語家は7、8百人もいて、講談は7、8十人。 落語で何とか生き ながらえて、去年の暮、引越しまでした。 都営住宅、公団住宅に外れて、地 元の不動産屋で見つけた。 「コウダンには入れない」。 落語は、他とは“ラ ベル”が違う、下げがある。 講談は「この続きはまた明日」…、翌日出て来 なかったりする。

 佐藤君、7、8年ぶりだね、会社を辞めたんだ。 何か不満があったのかい?  会社の方で、不満があった。 それから、いろんな職についた、タクシー運転 手。 免許持ってないだろう? 「腕よりも心で運転する人、募集」ってんで 行った。 トラックの助手、眠気の防止と荷物の上げ下ろし。 痩せて力はな いし、熟睡して、お前が一番のお荷物だと、下ろされた。 新聞配達は、朝が 苦手。 居酒屋は、夜が苦手。 デイサービスは、三日持たなかった、やって 来るお爺さんお婆さんの方が元気で。

 それで思い出したのが君のことだ、成功しているって聞いていたんで、どう か俺のことを雇ってくれ。 手を上げてくれ、明日から働いてもらうよ、月給 はいくらいる?  かみさんに息子がいるんで、80万。 100万、出そう。 月 給100万円、どんな仕事だ?  会社で、ただノソノソ、ブラブラしていれば いい。 珍獣動物園をやる、手乗り豚、落語やる白鳥…。 熊沢君、例のライ オン、連れて来て。 何、これ。 白いライオンのレオ君だ。 日本に来た時 は、まだ生きていたんだが、寒さで死んだ。 この歳で、ライオンやるのか。  いやなら、いいよ。 やらせてもらうよ。 一晩、みっちり稽古だ、ライオン は猫族だから、進む方向の反対側の肩が落ちる、アン、ドゥ、トワ、そうそう。  お客が馬肉を放り込むから、かまわず食べていい。 ナマかい、檻の中に炭火、 備長炭、酒、それに芸者を二人、一杯やりたい。 勤務中に飲んじゃいけない、 虎になるから。

 珍獣動物園、ポスターで大々的に宣伝したので、お客さんが沢山やってくる。  ライオンの檻はステージに乗っている、ショータイム方式、フロックコートで 杖を持った司会者が、「動物博覧会! 全身真っ白のホワイトライオン、レオ君 でございます!」。 お客がいっぱいだ、仕事はやりがいだね。 あれ、ガキが あんパン食べているよ。 「ガオーッ、ガオーッ、あんパンくれよ」。(顔をマ イクに近づけるので、大きな音で拾う) あれ、ライオンが両手であんパン手 づかみしているよ。 「ここに一本の鉄棒、これでライオンの横腹をつついて ご覧に入れます。」 冗談じゃないよ。 隅でブルブル震えている。 客が馬肉 を投げる。 「ライオンは歯が丈夫だ、歯磨をつくっている位だから。」

 隣の檻は、豹との混血で半身タイガー、虎だ。 「ガァーッ」と吠えた。 「開 園初日の大サービス! 真ん中の鉄柵を取り払います!」 パンパンパカパーン!  ギイーッ、ガッチャン。

 聞いてないよ、そんなの。 助けてくれえー。 客の親は、子供に残酷なも のを見せないようにと、抱きよせる。

 「ガァーッ」虎が、ライオンに飛び掛かって来た。 耳の所でささやく、「心 配するな、俺も100万円の口だ」(下げだと思って、みな拍手)  このあと、虎がどんな運命になったか、その続きは、また明日。

三遊亭歌奴の「鼓ヶ滝」2017/02/03 06:36

 歌奴というと先々代(中沢家の圓歌)の印象が強すぎる、現・歌奴は大柄、 丸顔だ。 相撲観戦、寅さん見ながら一杯飲むのが趣味だと言う。 昔の師匠 方は、俳句や川柳を詠んだ。 掛け取りを詠んだ、<大晦日どう考えても大晦 日>は、五代目小さん作。 長井好弘さんの『落語と川柳』を見ると、作風と 芸風は似てくる。 志ん生作、<干物ではサンマはアジにかなわない><ビフ テキで酒を飲むのは忙しい><気前よく金を使った夢を見た>。 好きな川柳 は、<土俵上日本人は行司だけ>(と、羽織を脱ぐ)。

 俳句や和歌は、季節感や風景を詠み込む。 ここが鼓ヶ滝か、弱ったな、歌 を詠もうと思うのだが、言葉が出てこない。 通りかかった樵(きこり)が歌 人と知り、歌が好きなので聞かせて下さいと。 歌人は、たんぽぽを「つつみ 草」ということを思いついて、<伝え聞く鼓ヶ滝へ来て見れば沢辺に咲きした んぽぽの花>と詠むことが出来た。

 暗くなってきたな、腹が減った、もう歩けない。 明りがちらちら見えた、 助かった。 道に迷った旅の者ですが。 どうぞ、囲炉裏のそばへ、顔色がよ くない、腹が減っているのでは、鍋の中に粥がある、五穀の粥、どうぞ、どう ぞ。 こんな美味いものは、初めてです。 婆さん、味噌汁はあるか。 ない。  吸い物をこしらえてあげなさい。 実がない。 永谷園はなかったか? ない か、お茶でも飲んで、ゆっくりなさい。

 鼓ヶ滝の前で、歌を詠もうと思いました。 家でも孫娘のお花坊と三人で、 歌を詠んで遊んでいる、聞かせて下さい。 <伝え聞く鼓ヶ滝へ来て見れば沢 辺に咲きしたんぽぽの花>と詠みました。 あと一つ手直しすれば、天下無二 の歌になる、「伝え聞く」を「音に聞く」と直されよ。 ご老体、有難うござい ます。 手直しを受けて下さいますか。 すると婆さんがあと一つ「鼓ヶ滝へ 来て見れば」を「鼓ヶ滝を打ち見れば」と手直し、これも頂戴する。 孫娘の お花坊、よいお歌になりましたね、でも旅の方、「沢辺」を「川辺」に直せば、 皮と川、滝が一段と大きくなります。 <音に聞く鼓ヶ滝を打ち見れば川辺に 咲きしたんぽぽの花>、歌が見違えるようになりました、私は西行と申します 歌詠みですが、天狗の鼻を折っていただきました。

おい!と、樵。 ここは? 滝の前だよ。 夢か。 旅人はみんな夢を見る、 同じ夢だ、永谷園はなかっただろう。 手直しを受けたか、お前さんは偉い。  日本一の歌人になられる方だ。 みんな怒って断るんだ。 あの三人は実は和 歌三神(住吉明神・玉津島神・人麻呂)なのだ。 和歌三神の歌の手ほどきで は、罰が当たる、もう手遅れだが…。  大丈夫だよ、この滝は鼓ヶ滝、けし てバチは当たらない。

歌奴、テンポもよくて、とても上手い。 芸名だけで見くびったのは、御見 逸れだった。

入船亭扇辰の「雪とん」前半2017/02/04 06:36

 扇辰は、深く一礼して、ずいぶん若くなりましたね…、出演者が、と言う。  私がそっち側にいた頃は、年寄りばかりだった。 今日は、特に若い、最年長 は市馬だが、五十代半ば。 昼間は、暖かかった。 小一時間散歩したんだけ れど、なんでこんな日に「雪とん」出したかって思った。 でも夜は寒くなる、 12時には0度近くになるそうで、寄り道はせずにお帰りを。 インフルエンザ が流行っている。 弟子が子供を連れてきて、可愛いんだが、いやな咳をして る。 2歳にならないくらいで可愛い、手づかみの食いかけを、私にくれる。  断るわけにいかないんで、カカアに食わしましたけれど。

 四百四病というけれど、昔からもう一つ、恋の病、恋患いというのがある。  娘さんが、何かのきっかけで、男に惚れる。 色っぽいものだったそうですね。  島田の髷ががっくり落ちて、後れ毛が真っ白い肌にかかる。 若くなくっちゃ あいけない、黒い肌に白い毛はいけない。

 小網町の船宿の二階で、昔世話になった田舎のお大尽の若旦那、庄之助がや っかいになっている。 どうなさったんです若旦那、せっかくの江戸見物だと いうのに、ひっこんでばかりで。 おらは、もう駄目だ、ものが食えなくなっ たら、お終いだ。 ご飯は? たったの八杯。 大福餅を三十ばかり、買って こさせたそうじゃないですか。 二つだけ残した。 お体に悪い、医者に行か れたらどうです。 おらの病いは、お医者様でも草津の湯でもという病いで。  ことによると恋患い、人は見かけによらないもので、お見それしました、相手 はどなたで? おかみさんも、よく知っている。 三日前、太った女中が付い て、この前を通った、あのお嬢さん。 本町二丁目の糸屋のお嬢さんです、本 町小町と言われている、ご無理だと思いますよ、ねぇー。 せめて、やさしい 言葉の一つでもかけて、盃の一つでも、もらえれば…。 そうでなければ、井 戸に身を投げて、おっ死(ち)ぬべえかと。 私、口を利いてあげましょう。  あの女中のお清が食わせ者で。

 ああ、おかみさん! すまなかったねえ、わざわざ来てもらって、困ったこ とが出来たんだよ、お前さんに一肌脱いでもらいたい。 家の二階にいる若旦 那が、お嬢さんに、これこれでねえ。 お嬢さん、ほんのねんねでしてねえ。  やさしい言葉の一つでもかけて、盃の一つでも、もらえればというんで、お前 さんの口利きでなんとか。 と、小粒で二両差し出す。 いけませんよ、おか みさん、ひっこめて下さい……、そうですか、せっかくですから頂いておきま しょう。 善は急げ、今晩四つ、裏の三尺の切戸をポンポンと叩いて下さい、 私が離れにご案内しますから。 私はお金で動くような女じゃございませんが、 おかみさんたってのお願いなので。

 暮六つ、ちらちらと降り出した雪が、だんだんと積もってきた。 若旦那、 開けますよ、すっかり雪が積もっちゃいました。 昔、深草の少将は小野小町 の所に百夜通い、満願の日が雪になり、雪に埋まって凍死したという、おらも 雪でおっ死(ち)んでも本望だ。 おかみさん、支度ができたよ。 襦袢が二 枚、胴着も二枚、すっかり厚着をし、頭巾に蓑。 足駄を出しておきました。 本町二丁目の角ですよ、裏の三尺の切戸をポンポンと叩いて下さい、そこから 先は、あなたの腕ですから。 行って参ります。 若旦那、番傘担いで出かけ た。

入船亭扇辰の「雪とん」後半2017/02/05 07:10

 若旦那、本町二丁目の角で、ワンワンワン! 足でも踏んだか、犬の、何だ 喜んでいるのか、色男様の匂いがするか、白か、よしよし。  その後ろを、二人連れの男。 なか(吉原)で、つまらねえ遊びでもするか ら、お袋によろしく言ってくれ。 25、6のいい男、白張りの傘を差し、下駄 の歯の間に挟まった雪を落そうと、黒板塀に下駄をトントン。 お待ちしてお りました。 お傘はこちらへ、お嬢様がお待ちで。 糸屋の裏木戸だな、俺は、 間違えられたのか、このまま中に入ってやろう。

 お嬢様、大変です、キリッとした江戸前の、役者にしたいような、いい男で。  お酒は? たんとは駄目ですが、一つや二つは。 お嬢さん、炬燵で絵双紙な んか見ている。 そこへ男が、いい形でガラッ、ガラッと、入って来る。 お 嬢さん、ブル、ブルッと震えて、顔を炬燵に突っ伏す。

 お酌をして差し上げなさい。 あなたも一つ、どうです。 やったり、とっ たり。 清や、雪の中をお帰りになるのは大変ですから、お泊りになっていた だいたら。 どうぞ、こちらへ。

 奥の四畳半、寝間着に、友禅の掻巻を上からかけ、目をつぶってウトウトし ている。 冷たい風が頬を撫でて、緋縮緬の長襦袢に、朱鷺色の縮緬の伊達巻 をしたお嬢さんが…。 どうぞ、ごゆっくりお休み下さいませ。 男は、親指 と人差し指で、長襦袢の裾を、ツッと引いた。 アーレーーッ。 たやすいこ となんですよ。 こういうことなんですな。 羽交い絞めにしたら、嫌がるで しょう、大声を出して抵抗(と、やって見せ)、大騒ぎになる。 それが、親指 と人差し指だけで…。 行灯の灯が消えて…。

 可哀そうなのは、田舎の若旦那。 切戸をトントン。 ここも違うか、トン トン。 一晩中、叩いて歩いて、雪だるまのようになった。 すると、黒板塀 がスーーッと開いて、またですよ、お待ちしておりますよ。 先に入った奴が いたんだ、ここが糸屋だったんだ、おら、糸っ屑だ。

 小網町の船宿の前を、鳶頭(かしら)が通る。 昨夜は? 夜っぴて、建前 で。 おかみさん。 若旦那、昨夜はお楽しみでしたか。 お苦しみだ。 お 洟が垂れてます、眉が凍って氷柱が…。 先に入った人がいて、鳶頭、あの若 僧だ。 石町(こくちょう)の仕事師で、いい男、お祭佐七という伊達男です。  お祭佐七か、道理で、おらはダシにされた。