十代の恋愛、七十代の恋愛2010/08/10 06:34

 7月、黒井千次さんが朝日新聞夕刊文化面のコラム「私の収穫」を、この欄 にしては珍しく10回も連続で書いていた。 サラリーマンから作家生活に踏 み切るあたりや、高校生の時に書いた物が日の目を見た話も面白かったが、第 9回「朝の顔立ち」と第10回「夕べの面影」を読んで、ちょっと鼻を高くした。

 この日記の4月13日に「行き止まりに、小さな穴をあける」と題して、黒 井千次さんの『高く手を振る日』(新潮社)を紹介し、14日の「70代の初々し い「恋」」では40代に差し掛かる頃読んだ『春の道標』に触れた。 そこには 「『高く手を振る日』を読むと、「恋」に年齢は関係がないらしいと思えてくる。  70代の嶺村浩平の思いと躊躇(ためら)いは、まるで中高校生の初恋のようだ。  今時のそれはもっと直截なのかもしれないから、「昔の」と断わったほうがいい かもしれないけれど…」と書いた。

 黒井さんは「朝の顔立ち」で、40代の終わり1981年刊行の『春の道標』が 当時の夏休み読書感想文コンクールの課題図書になり、高校生たちが「なんだ、 親たちの世代も私たちと似たようなことをしていたのだな、という柔らかな溜 息に似た呟き」をもらしていたことに安堵したという。 「夕べの面影」では、 『高く手を振る日』について「今度は自分が七十代の後半にさしかかってその 年齢の恋愛を書くことは、『春の道標』を書いたことと遠く呼応し合うような気 もした。」「七十代の恋愛が十代の恋愛と同じとはいえまい。年齢や時代が違え ば環境も異なる。にもかかわらず、やはり変わらぬものがあるのかもしれぬ。 まだもうしばらく、そのあたりの夕べの面影を見つめていたい気持が強い。」と 書いている。

 そうそう、いつぞやの句会の帰り、私のブログを読んでくれているらしい50 代の連衆が、「馬場さんご推薦の『高く手を振る日』を読みましたよ」と、言っ てくれた。