レオニーも、監督も、女優も…2010/12/22 06:46

 映画『レオニー』の松井久子監督(64)は7年前に、ノンフィクション作家 ドウス昌代さんの『イサム・ノグチ―宿命の越境者』を読んで、レオニー・ギ ルモアという女性の存在を知り、即座にレオニーの生涯を映画化したいと思っ たそうだ。 「米国人の女性が100年前に日本に渡り、一人で子育てをするの はどれほど困難だったか。自分で人生を切り開いていく彼女の姿を、女性たち に伝えたいと思った」と、朝日新聞の諸麦美紀記者に話している。 この松井 久子監督の人生そのものが、レオニーに重なるのだ。 その11月3日付朝日 朝刊の記事によると、大学を出てすぐに同級生と結婚し、27歳で息子を産んだ。  生活のために始めた芸能雑誌のフリーライターの仕事が順調になればなるほど、 物書きを目指す夫と気持がすれ違い、33歳で離婚。 息子の存在が大きな支え となり、自分で何でも決断するキャリアウーマンの道を歩む。 俳優のマネジ ャーになり、俳優プロダクションを設立、39歳でテレビ番組の制作会社を立ち 上げた。 中学を卒業した息子が留学したいと言い出し、「仕送り地獄」をがん ばった。 50歳で撮った監督デビュー作『ユキエ』、5年後の『折り梅』、観客 動員数は合せて200万人を突破し、各地で自主上映会が続いているという。

『レオニー』も、製作費13億円を集めるのに6年。 撮影と編集に1年か かった。 脚本は14回、書き直した。 携わったスタッフは400人。 過去2 作品の根強いファンと、松井さんの挑戦に共感した女性たちが2005年、支え る会「マイレオニー」を結成、賛同金を募り、会員は3千人を超えたという。

『レオニー』には、プロデューサーが3人いる。 アシュク・アムリトラジ、 永井正夫、伊藤勇気。 アシュクはインド人、ハリウッドで最も成功したプロ デューサーの一人といわれる、ウィンブルドンにも出た元テニスプレーヤー。  伊藤勇気は、ドイツから合流した松井さんの留学した息子、アメリカとの交渉 役を務めた。 日常会話程度の英語力で日米合作映画を撮ったという松井監督、 監督の製作日誌を読むと、この息子さんの支えが大きかったことがわかる。 レ オニー役のエミリー・モーティマーは、日本での撮影を前に妊娠していること が判った。 エミリーは、それを監督に知らせて気を使わせてはいけないと、 伊藤勇気プロデューサーだけに打ち明け、最後までひた隠しにしたまま、すべ ての撮影を滞りなくこなした。 冷たい海で泳がせたり、深夜の坂道を何度も 走らせたりした監督は、後でゾッとして、冷や汗を流しながらも、そのプロ根 性に感心したという。 半年後、二人目はやっぱりレオニーと同様、女の赤ち ゃんだったという知らせを受けた監督は「恐るべし、エミリー・モーティマー!」 と、舌を巻くしかなかったと書いている。