柳家小せんの「紋三郎稲荷」2017/12/03 07:12

 小せんは黒い着物に濃紺の羽織、長身で首が長い。 ほんのしばらくの間な ので、のんびりと聴いてくれ、と。 昔は、狐、狸が化かす話がよくあった。  明りが暗かったからだろう。 狐と狸、どちらが化かすのが上手いか。 「狐 七化け、狸は八化け」というけれど、狸御殿、狐宮殿と言うから、九対五で狐 の勝ち。 どこか抜けているのが狸、店の前に信楽焼の狸が立っている。 客 商売で、「他を抜く」という縁起をかつぐともいうが、右手に徳利、左手に大福 帳、それにもう一つ、ぶらさげているものがある。 居酒屋の大将にワケを聞 いたら、「うちは前金でお願いします。」 狐の方が、たちの悪い感じがある。  顔のついているシルバーフォックスの襟巻をしているご婦人がいる。 あれは 策略で、見比べて、器量が良く見えるという。 あの狐を産んだのかという顔 もある。

 狐は、稲荷神社のお使い姫だといって大事にされる。 京都の伏見稲荷、三 州豊川稲荷、佐賀の祐徳稲荷、江戸の王子稲荷など。 王子稲荷には、お狐様 の穴がある。 北は常陸の笠間にある紋三郎稲荷、牧野越中守のご家中、山崎 兵馬兼良という侍が江戸へ向う。 病み上がりで、割り羽織に狐の胴服のシッ ポもついているのを着込んでいる。 取手(とって、今はとりでと言う)の渡 しを渡ったところで、駕籠屋、松戸までいかほどだ。 八百で。 酒手ぐるみ、 一貫文でどうだ。 どうぞ、お乗りを。 いい心持になって、眠くなる、うと うとする。

 おい相棒、おかしくねえか。 近頃の客は値切るのに、千出すってんだぞ、 話がうま過ぎる。 お狐様でも乗っけたんじゃねえか、シッポが出ているんだ。  これを聞いた平馬、面白い、化かしてやろうと、シッポを動かす。 おい、駕 籠屋、今どのへんだ。 牧野原で。 ワシは笠間から参った。 牧野様のご家 中の方で? 牧野の家来ではない、江戸の王子に参る。 エッ、それでは旦那 様は、ことによると紋三郎様の、ご、ご眷族の方ですか、障りのないように願 います。 犬がいるな。 先の立て場で大きな犬が、三匹生みました。 その 次の立て場までやれ。 立て場の休憩所に着くと、兵馬は稲荷寿司ばかりパク パクやってる。 お前達も食せ、牡丹餅はどうだ。 けっこうです、馬の糞に なったらいけませんで。

 松戸はどこへ。 旅籠に泊まろう。 本陣が紋三郎様ご信仰ですので。 そ こへ頼む。 一貫文でいいな。 明日、木の葉に変ったりしませんよね。 そ れは野狐のいたずらだ。

 旦那に急いでお耳に入れたいことがあります。 今、上がられたのは紋三郎 様のお使いの方です。 間違いないな。 ご祝儀に、草鞋銭だ。 主は紋付羽 織袴姿に着替えて、当家の主、高橋清左衛門でございます、紋三郎様をご信仰 しておりまして、庭に祀った祠にはご夫婦のお狐様がお住まいで。 駕籠屋が 何か言ったな。 庭から知らせがあったか。 何を聞いても、コンコンと申し ます。 おこわ、油揚げをお出ししますか。 それは初心の者の好むものだ、 何かないか。 当松戸はナマズが名産でして。 ナマズ鍋、鰻、泥鰌、鯉こく などがよい、お神酒もだ。 主自ら酌に上がる。 よい酒だ、肴も結構。 そ う見るな、この間酒の席で、豊川と王子が喧嘩してな、伏見と私で止めに入っ た。 大御馳走を食べていると、座敷の外がザワザワしてくる。 近郷近在の 者たちが、拝みたいと申しておりますが。 隣から拝むのを許す、賽銭なども 受ける。 兵馬、拾っては、袂に入れる。 明朝は、早立ちになる。 立つと ころは、人目にふれたくない。 見送りはしないように、覗くと目がつぶれる。

 いたずらが過ぎた、主君の名にも傷がつく。 夜の明けぬ内に旅仕度をして、 庭の祠を片手で拝み、逃げ出した。 二匹の狐が、ハァ、人間は化かすのが、 うめーや。

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