立川龍志の「花見の仇討」前半 ― 2026/03/28 07:16
春本番、あと二日で満開という、いい時期で。 あと何回、桜が見られるか。 あと何回、トンカツが食えるか。 花といえば、桜のことで。 善ちゃん、桜を見に行こうか。 いいや、シャツ洗っちゃったんで。
昔は、花見にいろいろと趣向を考えた。 弔いを出すのはどうだ。 座棺を、みんなで担いで行く。 花の下に置くと、中から仏が飛び出して、カッポレを踊る、というのはどうだ。
熊さん。 八か。 兄ィ、用があるって聞いて、来た。 花が満開だ、猪(いの)と竹と四ったりで、趣向をやりたい。 アッ! と言ったっきり、二の句がつげない趣向をやりたい。 竹、何かあるか。 白い大きな布、旗のようなのに、隠居に“アッ”の字を書いてもらう。 それを持って花見に行く。 みんな、アッ! と言ったっきり、二の句がつげない。 猪はどうだ。 あるよ、四人銘々に赤い長襦袢を着て、踏み台を持って行く。 花の下で踏み台に乗り、真っ赤な帯をほどいて首に巻き、丈夫そうな桜の枝にかけて、踏み台を蹴っ飛ばす。 見ている人は、注文通り、アッ! と言ったっきり、二の句がつげない。 後にも先にも、これっきりだ。 俺達はどうなる、出来ねえ相談は、駄目だ。
芝居を打とう、敵討だ。 巡礼兄弟、浪人、それに六十六部。 筋書きは、こうだ。 飛鳥山のてっぺんに大きな桜の木がある。 あそこで深編笠の浪人がぷかりぷかり煙草をやっている。 火を借りにきた巡礼が、探し求めていた仇と気づく。 やーー、やーー、汝は何のナニガシやな、盲亀の浮木優曇華の、花待ち得たる今日只今、いざ尋常に勝負、勝負! 何を、返り討だ! 喧嘩だ、敵討だ、と大騒ぎになる。 斬り合いに驚いて、いったん散った見物が、また囲んだところで、六十六部が仲裁に入る。 笈櫃(おいびつ)から、酒や肴、三味線を小さく畳んだのを出し、双方目出度い、目出度いと、カッポレの総踊りになる。 何だ、花見の趣向か、ワァーーーッて、受けようってんだ。 やろう、やろう。
役はこうだ、浪人は俺(熊)がやる。 敵ヅラだ、ちょうどいい。 巡礼兄弟は、猪と竹、六部は八、お前がやってくれ。 桜に坊主は付き物だ。 お前のおばさんは、三味線の師匠だ。 稽古をしよう。 猪と竹、火を借りに来な。 「卒爾ながら、火を一つおん貸しくだされたく。」 「さあさあ、お付けなさい。」 敵の顔を見て、驚くんだ。 ダァッ! と驚くんだよ。 キャーーッ! 猪、お前、いらない、帰れ、三人でやる。 そんなこと、言わないで。
台詞を書いてやった。 やーー、やーー、汝は何のナニガシやな。 何のナニガシ、名前を言うんだ。 汝は、建具屋の熊公やな。 駄目だ。 汝は、月形半平太やな。 ありそうでない名前だ。 汝は、北風寒右衛門やな。 親の仇を探し求めて、何年。 何年か、言うんだ。 七年。 親の年回じゃない。 本読むようにやるな、台詞だよ。 割台詞だ。 巡礼は仕込み杖、本身を使う、ギラッギラッと、大ダンビラだ。 竹光はペタペタして駄目だ。 八、六部だ、頼むよ、止めに入るんだ。 暫く、暫く! 立回りは本身を使うから、気をつけてやれ。
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