レビストロースとトゥルニエ版「ロビンソン」2009/11/28 07:19

 今月の初め、クロード・レビストロース氏が、100歳で亡くなった、と報じ られた。 今日、28日には101歳を迎えるはずだったという。 もし池澤夏樹 さんの話を聴いていなければ、レビストロース関連の新聞記事を簡単に見過ご していただろう。 『知る楽』「世界文学ワンダーランド」の第4回「野蛮の 幸せ」で、池澤夏樹さんはフランスの作家ミシェル・トゥルニエの『フライデ ーあるいは太平洋の冥界』(1967年)を取り上げた。 この作品は「フライデ ー」から想像されるように、デフォーの小説『ロビンソン・クルーソー』(1719 年)を下敷きにしている。

 トゥルニエ版の「ロビンソン・クルーソー」は、「野蛮人」フライデーが登場 してから、デフォーの小説とは、まったく違う展開を示す。 それは20世紀 半ばに書かれたからで、文化人類学者のクロード・レビストロースが『野生の 思考』などで明らかにした、それまで「野蛮」と呼ばれていたものが、実は「文 明人」とは違う物差しを持つ、独自の世界観と知恵を持った文化だという思想 の影響を受けていた。(『マイトレイ』のミルチャ・エリアーデは、それを宗教 学から見た。) トゥルニエ版のフライデーは、一個の自立した人間であり、大 胆な性格を持ち、遊ぶこと(変装をしたりして)を知っているのだった。 彼 は自分の立場で、賢く環境に対応することが出来、遊びという無意味な中に意 味を見出すことが出来る人間だった。

 トゥルニエは、西欧文明を相対的に見ることによって、人間が生きるとは何 か、魂とは、遊びとは、遊びだけでいいのか、といった問題を、読み終わった ところから読者に考えさせ始める、と池澤さんは話した。