市馬の「堪忍袋」2009/11/05 07:20

 師匠の先代小さんは、気が短くて、すぐに怒ったと、市馬。 手が飛んでく る、あとで、悪かったな、と謝ったりした。 夫婦喧嘩がすごかった。 おか みさんが二つ上、晩く帰ると「こら盛夫」「うるせえな、くそったれかかあ」「く そをたれないかかあがあるか」。 二階に上がって、くんずほぐれつの大喧嘩、 「ガッチャーン」と灰皿かなんかを投げた音、最後に「キヤーッ」と、男の声。  あくる朝、お膳をはさんで、二人でご飯を食べていた。 ふつうの顔をして…。  灰皿は、投げてもいいような灰皿、なんとか宝石とか名前の入ったやつだった。

 長屋の隣の大工・寅の家、度を過ぎた夫婦喧嘩、朝から六たびもというので、 一緒に木場へ木を見に行くはずの鈴木の旦那が止めに入ると、「いえ八回です よ」。 モロコシの、人に怒った顔を見せない人物、実は、甕(かめ)の中に、 言いたいことを吹き込んで蓋をしていた。 よっぽどの人物というので、上か らは引っぱられ、下からは押し上げられて、出世した。 堪忍袋を縫って、そ の中に吹き込んで緒を締めろと、鈴木の旦那が教える。

 女房のお光が袋を縫う(市馬の手つきが見所)間、そも馴れ初めからの言い 合いになる。 お店に奉公している時、寅が仕事に来て、弁当の時に、がんも どきを一つ出してやったら、美味しいと涙をこぼした、柱の陰から怪談噺のよ うな手つきで呼ぶ、物置の裏へ連れて行き、壁に押さえつけて…、「すけべ、こ の物置野郎」。

 夫婦喧嘩を、袋に吹き込むと、心の霧が晴れたよう、五月の鯉、近来稀に見 るいい気持になる。 隣で聞いていた連中、夫婦喧嘩かと止めに入ると、夫婦 はニコニコしている。 訳を聞いて、長屋中が堪忍袋を借りに来る。 パンパ ンになったので、捨てようとすると、今日は生ゴミの日、明日にしよう。 寝 ようとすると、酔っ払い、熊公だ、明かりを消すと、消したな、戸の隙間から 小便たれ込むぞ、という。 やむなく開けると、親方のところで芳公に兄貴の 仕事は時代遅れといわれ、張り倒して喧嘩になった。 みんなに熊が先に手を 出したと、押さえつけられてポカポカやられた。 袋を貸してくれ、一杯で駄 目だ、熊が無理矢理引っぱったので、緒が切れて、一度に「すべたあま」「物置 野郎」etc.etc.…。 このところ進境著しい市馬、楽しい高座だった。