1968(昭和43)年という時代 ― 2010/09/18 06:58
池澤夏樹さんの『カデナ』では、主として1968(昭和43)年の2月から11 月までのことが描かれている。 1968年という時代を、『波』2009年11月号 のインタビューで池澤さんがこうまとめている、「戦争が終わって、日本では平 和憲法が制定されたのに、あっという間に逆コース。同じようなことが世界中 で起こって、経済成長と保守化がどんどん進んだ。それに対する若い人たちの 反抗の頂点が1968年だった。パリでは五月革命が起こり、日本では東大紛争 があって、ベ平連も活発に動きだす。一方でキング牧師とケネディ(ロバート) 上院議員が暗殺され、プラハの春は終わり、ベトナム戦争は泥沼化していった。 /つまり支配する側と反抗する側の力が派手にぶつかった時期だった。しかし その後この動きはすっかり停滞してしまう。ベトナム戦争は終わり、冷戦も終 わったけれど、リベラルな思想は強欲な新自由経済の思想に負けるばかり。そ の果てのイラク戦争でしょう。1968年の精神はどこへいったのか。当時23歳 だったぼく自身は、学生運動は外から見ているだけで関らなかった。このやり 方では長くはつづかない、おれのほうが長く闘うぞ、と思っていた」
1968(昭和43)年は、当時27歳だった私にとっても、変化の年だった。 政 治的にはまったくのノンポリで、「経済成長と保守化」の末端、銀行に入って4 年目、入行の年の秋に転勤した丸の内の本店営業部にいた。 3月14日に第五 次落語研究会が国立小劇場で始まることを知り、定連券を手に入れた。 11月、 銀行を辞め、家業のガラス工場に入社した。
『カデナ』で、英語の達者なタカは、大学生で、本土のベ平連につらなる運 動に参加しているアメリカ人との混血の姉に頼まれて、脱走兵を第三国に亡命 させる活動にかかわる。 前年秋、ベ平連が空母イントレピッドの米兵4人を ソ連経由でスウェーデンへ逃がした事件があった。 ベ平連、「ベトナムに平和 を! 市民連合」、池澤さんは「ベ平連はゆるやかだった。行動するけれど、無 理はしない。いつやめてもいい。それがあの運動のいちばんの値打ちでした」 という。 私がボーッとノンポリに暮らしていた当時、4月30日に亡くなった 湊邦彦君は、そんな活動をしていたのかもしれないと、『カデナ』を読みながら 思ったのだった。
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