反響(2)「あるメジロの物語」2011/03/13 08:29

 短信「ある小さなスズメの生涯」の反響から、もう一つ。 U組同級のU君 は、九州在住だ。 ハガキの表裏に線を引いて、小さな字でびっしり、短信と 同じくらいの字数を書いてくれたのは、律儀な人柄を如実に示している。

 輪切りにしたミカンを木に掛けておくと、メジロが夫婦でやって来る。 食 べる順番があって、先にオス、その間メスは見晴らしのよい高枝で警戒してい る。 程よいところで、メスと交代する。 ミカンがない時は、枝から枝へと 忙しく飛び回り、なかなか去ろうとしない。 明らかにU君を意識して、ミカ ンの催促をしている。

「動物は自然のままにしろ」ということを、判っているので、追加のミカンを 置かずに放っておくと、諦めて来なくなる。 メジロが決心するまで、一週間 はかかる。 その間、U君はつらい思いをし、心を痛める。 「自然の中で、 たくましく生きてくれ。人間のエゴに甘やかされてはいけない」。  4~5日 経っても、同じようにやって来て、夫婦でじっとしていると、このまま餓死す るのでは、と慌てる。 ミカンを持って庭に出るべきか、いや突き放すべきか、 と自問自答を繰り返す。 心を鬼にして、窓を背にして、生活していると、そ の内メジロのことが気にならなくなる。 3週間もして、姿を見せなかった二 羽のメジロが、元気に枝で囀っている。 ジュジュジュと、低音だ。 「良か った、食物があったのだ」 多分、梅、桜、椿、その他の花々の蜜を吸ってい るのだろう。 生態系を崩さなくて良かった、と餌遣りを反省する。

 しかし、次の冬が到来すると、つい可愛さのあまり、庭の小枝に、ミカンの 乗っかる光景が出現する。 そして、同じ悩み、同じ自問自答が始まる。 そ うしたことが、何年も続いたのであろう。 そばにいる奥さんが言う。 「お 父さんは仕合わせね。小鳥に餌をあげるべきか、毎年悩んでいる。それで一つ ずつ歳を取っていく。そんなお父さんの側に居る私も仕合わせです」 (さすが九州男児の奥さんだ、管見だが、東京では絶滅危惧種かと思われる)

 三年前、U君が近くのスーパーに行くと、壁と地面の境に、小鳥が死んでい た。 それがメジロであることは、すぐに判った。 羽根が緑色で、艶々して 光っていた。 以心伝心、心で会話していたメジロの一羽だったのだろう、と 思った。 死ぬ前に、彼に挨拶をしたかったのだろう。 それにしても、彼が その場所を通ること、そして死ぬ時間とを合せてくれるなんて、人智の及ばな い能力が、彼らにはあるのだと、U君は自分を納得させたのだそうだ。