なぜ通史でなく事典なのか『慶應義塾史事典』『福澤諭吉事典』2011/03/27 07:49

 地震前日の10日、福澤研究センターの『慶應義塾史事典』『福澤諭吉事典』 完成記念シンポジウムが三田キャンパス東館4階のセミナー室で開かれた。  テーマは「福澤諭吉と慶應義塾―二つの事典からの展望」だった。 まず司会 で両事典の編集の中心となった福澤研究センター西澤直子教授から、編纂経緯 の話があった。

 福澤センターで塾創立150年記念の出版物の検討が始まったのは1993年、 96年には通史でなく資料集を編纂する方針を決定した。 97年には慶應義塾 理事会が、2001年2月の福沢没後100年を記念して『福澤諭吉書簡集』の編 纂が決定され、編集メンバーはそちらを優先して、忙殺されることとなり、03 年『書簡集』全9巻が完成した。 04年福澤センター内にワーキンググループ を組織、資料集および別巻として『慶應義塾史事典』刊行を計画、創立150年 史資料集編纂委員会を組織。 06年、前年発足した全学の創立150年記念事業 委員会の下に、創立150年記念誌刊行委員会が発足し、資料集の刊行と、別巻 として『慶應義塾史事典』と『福澤諭吉事典』の刊行を決定した、という。

 なぜ創立150年の通史でなく、資料集なのか。 『慶應義塾史事典』の、編 集委員会による前書き「編集にあたって」に、こうある。 「創立100年以降 の資料の収集・整理は、必ずしも十分なものではなく、その状況で歴史研究書 としても価値のある通史を書くことはきわめて難しいとの判断があった。」「通 史は義塾としての「正史」となりかねないものですが、果たして義塾に「正史」 が必要なのかという議論もあり」「むしろ義塾史についても「多事争論」(『文明 論之概略』)こそが義塾にとってふさわしいという観点」で、現状では通史の編 纂は適切でなく、現時点で最適なものとして、事典というかたちが選択された、 というのである。