喜多八の「死神」 ― 2011/08/30 05:48
喜多八、いつものように、けだるそうに出て来て、寄席は力を入れるもんじ ゃない、あとはなるようになれ、という。 夏痩せというけれど、痩せない、 体重が落ちない。 いろいろ試みている女性がいる。 二枚の写真をくらべる 宣伝がある。 でもあれ、写真の順番が、本当に正しいのかどうか、わからな い。 食わないのが一番いい。 そうもいかないから、好きな物を半分食う。 でも空腹で、寝るのは大変だ。 痩せるより、ボケの方が心配になる。 楽屋 でも、貧乏神はよく見るけれど、死神は見ない。
「家には米を食べる虫がいるんだ、それでも男か、子供と二人で出て行く」 と女房に言われ、そのガキにも「お父っつあん、甲斐性なし」と捨て台詞を言 われた男、あてつけに死んでやろう、あの世で乙な年増と蓮の華の上で所帯を 持とう、と考える。 大川に飛び込んでやろうか、よそう、ガキの頃、神田川 で水飲んで、えらい目にあった。 首つり、形がよくねえ、ぶら下がっている のを見たことがある。 おせぇーたろうか、と死神が登場、お前が何となく好 きだ、金儲けを教えてやる、医者になれ、儲かるぞ。 死神が、病気で寝てい る人の、枕元にいれば駄目、足元にいれば助けることができる。 かける呪文 は「アジャラカモクレン、キューライス、キヨク、ケダルク、ウツクシク」、手 を二つ叩く。
よし、やってみるかと、蒲鉾板に「イシヤ」と書いて出す。 さっそく、石 町三丁目越後屋四郎兵衛の若い者が、易で乾(いぬい)の方角に最初の看板が出 ている医者にかかれと出たとやって来る。 今まで、偉い先生に診てもらった。 アオモリシュウテン先生は「先がない」、アマイヨウカン先生は「アンセイにし ておけ」と言ったという。 足元に死神がいた。 旦那は眼を覚ますと「お女 郎(じょーろ)買いに行きたい」
まるで生き神様といわれ、脈を取っても十何両、一両はそのほかだと、売れ かかった噺家のような料簡になった。 しかしある日、江戸で五本の指に入る 大金持に呼ばれたが、死神は枕元にいた。 百両頂いて帰ると言うと、直せば 千両、たとえひと月でも命を延ばせば、三千両支度をいたしますという。 力 のある若者を四っ人(たり)、蒲団の四隅に座らせ、丑三つ時、死神の世界にも いろいろ付き合いがあるらしく、くたびれて舟を漕いだところを、蒲団の上下 をひっくりかえす。 「お女郎(じょーろ)買いに行きたい」
お前のおかげで、死神を下ろされ、貧乏神に格下げになった。 最後のお勤 めで、連れて行くところがある。 どうしても見せたいものがある。 穴、こ の世の裂け目。 このローソクの一本一本が人間の寿命だ。 長いの、短いの、 くすぶっているのは患っている。 長いのがお前のセガレ、パチパチ撥ねてい るのがカミさんだ。 芯だけのが、お前の寿命。 一つだけ方法がある。 血 のつながった者となら、取り替えられる。 セガレと取り替えればいい。 「そ れだけはできないよ」 お前にも、人間らしいところが残っていたな。 この とぼしかけのローソクに火を移すことが出来たら、助かるかもしれない。 投 げるから、拾ってこい。 「移ってくんねえ」 消える、消えるよ、エヘヘヘ ヘ。 消えた。
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