五日市青年グループの学習法2014/07/13 05:35

 6月3日、「五日市の民権家たちは、勧能小学校訓導の千葉卓三郎(起草者と いわれる)を中心に学習結社、五日市学芸講談会に集い、私擬憲法草案の作成 に当った」と書いた。 その実際の様子は、次のようなものだとわかってきた。

五日市の青年たちは、仕事を終わると早ご飯をすませて、夜集まってくる。  冬なら炉端で議論する。 ただ議論してもしょうがないから、一人一人順番を 決めて、スペンサーの本やエミール・アコラスの『政理新論』、ミルの『自由論』 を読んできて、紹介する。 あらかじめ、賛成と反対の討論者を決めておいて、 幹事を中心に討論し、聞きっぱなし、しゃべりっぱなしにしないで、討論の後 には必ずしめくくりをする。 参加する会員全員の一人一人に発言を求め、出 席していて三回以上発言しないと、除名するという厳しい学習結社のルールが つくられていた。

そんな熱心な学習は、いったい何を目指していたのか。 色川大吉さんは、 彼らが江戸時代以来の日本の国のあり方や、明治政府のやり方に非常に不満を 持っていて、それに代わるような日本の未来像を描き出そうという情熱によっ て勉強が行われていたのではないか、という。 日本の将来あるべき姿を構想 していくと、憲法というものをつくらなければ、日本の進むべき道が定まらな い。

どんな議論をしていたか。 憲法に関するものが非常に多いけれど、死刑を 廃止すべきか認めるべきか、人民を武装させるべきか(民兵)、天皇に特別の権 利を与えていいか、皇居を東京から他へ移すべきかどうか、女帝を立てていい か、衆議院議員に給料を払っていいか、といった議論をしている。 なかには 面白い論題もあり、入れ墨を禁ずるのは正しいか、牛乳を飲むのは是か非か、 衛生上、襟巻を用いるのはいいか悪いか、甲という男が夫のある乙という女性 と道路において接吻した、その処分をどうすべきか、中学の教科書に政治書を 加えて良いか悪いか、などというのもある。 さらには、外国の資本を自由に 入れることの是非、外国の製品にもっと関税をかけて国内産業を守るべきか、 などと、議論は非常に具体的、生活的だった。 そうして討論をして賛成論と 反対論を十分闘わせ、どちらが優勢であったかを、議長が賛否を問うて判定を くだし、さらに疑問がある場合は、次の会に持ち越す。 つまり、相対立する 見解なり、思想なり、たがいに尊重し、認めながら一題一題討議し、その上に 立って一条一条かためていったのが「五日市憲法草案」であった、という。