「預金封鎖」「新円切替え」「臨時財産調査」2021/02/15 07:04

鴨下信一さんの『誰も「戦後」を覚えていない』「預金封鎖―ペイ・オフは昔からあった」の章の核心は「預金封鎖」の話だ。 昭和21年8月に厚生省が全国勤労者標準五人家族を対象に行なった調査で、一ヶ月の平均実収504円40銭、支出は844円80銭、差引き赤字340円40銭とひどいものだ。 物価に賃金が追いつかないうえに、もっと怖ろしい残酷なことが起こっていた。 「預金封鎖」だ。 終戦から半年後、昭和21年2月17日の朝、それは突然やってきた。 渋沢敬三大蔵大臣は、2月16日までに預けられた預金、貯金、信託等は生活維持のために必要な金額、一家の世帯主300円、その他の人は一人100円までを毎月認める以外、当分の間自由な払出しは禁止となること、さらに現在通用している100円以上の紙幣は来月2日いっぱいですべて無効になる、と発表した。

 「預金封鎖」は、「新円切替え」とセットになっていた。 すぐにも通用しなくなる旧券は、一定の金額しか新券と引換えられなかった。 あとは預金せざるを得ない。 預金すればたちまち封鎖扱いになるのだ。

 さらに旧券が無効になる当日、3月3日に「臨時財産調査」を行うこともセットになっていた。 すべての現金が新円切替えの中で強制的に金融機関に預け入れさせられる。 これですべての財産(貴金属等を除く)が把握出来る。 これに〈財産税〉をかけるのだ。 財産税徴収後に預金封鎖を解除すればいい。 この臨時財産調査令では、3月3日午前零時における預貯金、有価証券、信託、無尽、生命保険契約などの金銭的財産の申告を4月3日限り金融機関を通じまたは直接税務署に提出する義務が課せられることになった。

 こうした暴虐といっていい施策を政府が案出した最大の原因は、「戦時補償」債務があったからで、国債を大幅に消却し、莫大な国庫の重荷を整理することにあった。 これらの施策の最大の問題点は、この措置の法律的裏付けが「緊急勅令」という非民主的形式でなされたことだという。

 勅令第八十三号・金融緊急措置令―預金封鎖と支払停止
 勅令第八十四号・日本銀行券預入令―既発券の失効と旧券を預入させる
 勅令第八十五号・臨時財産調査令

 荒和雄『預金封鎖』(講談社文庫)によれば、十分な国会討議はなされず、即日実施された、この預金封鎖の際実施した法律が現行法として生きているから、「平成の預金封鎖」も法律、政令ではなく省令で十分実施出来るという。

 平成に出来ることは、令和でも出来るのだろう。 現在の日本の財政や日本銀行の状況を考えると、恐ろしいことだと言わざるを得ない。 新聞やテレビで、もっと問題にしてもいいのではないか。 と12日夜、ここまで書いたら、日本テレビで佐藤東弥監督の映画『カイジ ファイナルゲーム』(2020年)をやっていて、「預金封鎖」というセリフが聞こえて来た。

(参照 : 国債依存・財政破綻の先例、1945年11月<小人閑居日記 2018.8.6.>)