柳家小もんの「真田小僧」2023/10/04 07:11

 9月29日は、第663回の落語研究会だった。 国立劇場小劇場での開催も、あと一回となった。 仲秋の名月と満月が重なった、円く大きな黄色い月が皇居の森の上に出始めていた。

「真田小僧」   柳家 小もん

「さんま芝居」  雷門 小助六

「野ざらし」   入船亭 扇辰

       仲入

「開帳の雪隠」  三遊亭 萬橘

「百年目」    柳家 権太楼

 小もんは、茶の羽織に、青緑の着物。 お寺の近くの子は「御弔いごっこ」、刑務所の近くの子は「懲役ごっこ」をやる。 金ちゃん、何で着物を泥だらけに汚すの? お向かいの亀ちゃんは、ちゃんときれいなのに。 亀ちゃんは、終身懲役だから、ムシロの上に座っている。 あたいは、三月の懲役だから、モッコを担ぐんだ。 明日から、終身懲役に回してもらいな。

 金坊が火鉢の火を熾し、お父っつあんに煙草でも吸わないか、お茶でも飲まないか、という。 何でお茶だ。 お父っつあんと、茶のみ話がしたい。 子供は風の子だ、表で遊んで来い。 肩を揉んでやるよ、あたい親孝行がしたいんだ。 表へ行け。 表へ行ってくるけれど、おくれよ。 何を? お小遣い。 今朝、一銭やった、駄目だ、辛抱しろ。 じゃあ、明日の分を貸しておくれ。 明後日の分、やな明後日の分、やなやな明後日の分も。 そんなに先まで貸したら、わからなくなる。 わからなくなったら、一銭儲かる。 駄目だ。 おっ母さんに言ってくる。 おっ母さんが持ってる金は、お父っつあんが稼いだ金だ。 甘いね、奥の手がある。

 お父っつあんが留守の時来たおじさんの話をしようというと、お小遣いをくれるんだ。 話をしてみろ。 おくれよ、話をしたら一銭。 寄席や講釈場では、銭は何時払う? 先に出す。 話してみろ。 一銭ぽっちか、一銭だけしゃべる。 家の前におじさんが立っていた、白い服を着て、帽子に眼鏡をかけ、ステッキをついていた。 いますか? 今、カボチャ野郎はいない。 おっ母さんが、その人の手を取って、家に上げた。 おっ母さんは五銭くれて、表へ行って遊んで来いって、言ったんだ。 馬鹿、そういう時は、傍に居なきゃあいけない。 あたい、町内一回りして戻った。 偉いな。 いつもは開け放っている障子が閉っている。 穴を開けて、覗いた。 覗くと、お腹に力が入ってる。 一銭は、これまで、二銭もらわないと、先のことは話せない。 蒲団が敷いてあった。 座布団だろう。 寝る時の蒲団、おっ母さんは襦袢一枚で寝ている。 そのおじさんが、のしかかるようになって、あっちを触ったり、こっちを触ったりすると、おっ母さんがアーとか、イイーとか、もっと強く、とか言う。 二銭はこここまで、三銭、惜しい切れ場だ。 横丁の按摩さんが、おっ母さんの肩や腰を揉んでた。

 金坊に六銭、あげたような、取られたような。 また、やったのかい。 知恵がある、頭がいい。 悪ガキだ。 いい話を聞かせてやる。 頭がいいってのは、こういうのだ、寄席の講釈で憶えた真田三代記だ。 天正10年、天目山の戦いで武田勝頼が討ち死にした時、真田昌幸が数千で数万の軍勢に囲まれた、昌幸の倅14歳の源二郎が、敵の一方、松田尾張守の永楽通宝、六連銭の旗印を使って、大道寺駿河守勢に夜討をかけ、敵の同士討ちをさそい、真田は無事上田に逃げ帰ることが出来た。 源二郎は、のちに真田幸村となった。 真田はこれを記念して、のちに自らの家紋を二つ雁がねから、永楽通宝の六連銭にしたという。 講釈では、真田幸村は、大坂夏の陣で討死と見せかけて、薩摩に逃れたとする。

 それに比べて、金坊はどうだ。 金ちゃんは13だよ。 さなだの虫にもならない。 柱の陰で、耳がピコピコ動いてる。 金坊、聞いてやがったんだ。   お父っつあん、ごめんね。 六銭、出せ。 使っちゃった、講釈を聞いてきた、 真田三代記。 どんな話だ。 金坊が、流暢に話を復唱する。 お父っつあん、六連銭は、どう並べるの? こうだ、ヒーフーミーヨーイツムー。 あたいも並べていい、ヒーフーミーヨーイツムーか(と、かっさらう)。 どうもありがとう。 どこへ行く。 今度は、焼き芋を買って食うんだ。 うちの真田も薩摩に落ちたか。