入船亭扇辰の「野ざらし」後半2023/10/07 06:57

 向島、ずいぶん人が出ているな、みんな骨釣りか。 ガキもいる、ガキのくせに、色気づきやがって。 骨(こつ)は、釣れるかよ。 何です? お魚を、釣ってる、お静かに願います。 近藤さん、あの人、女のことばかり言っている。 色気違いでしょう。 俺、そこへ行くよ。 傍に来たよ。 スチャラカチャンたらスチャラカチャン! あたしゃ年増がいいんです、と、くらあーッ。 あんた、餌をつけなかったでしょ。 餌なんか要らない、こうやってりゃあ、いいんだ。 ♪鐘がボンと鳴りゃあ、上げ潮ォ南さ、カラスがパッと出りゃコラサノサ、骨がある、サイサイ。 そのまた骨にさ、酒をばかけてさ、骨がべべ着てコラサノサ、礼に来るサイサイ、そらスチャラカチャンたらスチャラカチャン! 大きな声を出すな、魚が逃げるーーッ! 魚に、耳があるのか、あるんなら見せてもらいたい。 スチャラカチャンたらスチャラカチャン! かき回しちゃあ、いけません。 俺っちのほうで、かき回すってのは、こうやるんだ。(大きくグルグル)。

 二十七、八、三十デコボコの乙な年増が、頭のてっぺんから、コンバンワーーッ! 上がってくんねえ。 まあ嬉しい、ペタッと座る。 この人、水ッ溜りに、座っちゃいましたよ。 そばにいてくれるだけでいい。 周りの女がうっちゃっちゃおかない。 タダおかないよ、口をつねっちゃう、ツネ、ツネ、ツネ。 痛い、痛い! この人、一人でやってるよ。 浮気すると、くすぐっちゃうから、コチョコチョ。 くすぐったいよ。 アッ、てめえの鼻を釣っちゃいましたよ。 アッ、痛い。 鼻から血が出た。 ばかばかしくて、ハナヂにならねえ。 針を取っちゃったよ。 この人、今度はオマルを引き寄せてますよ。 オマルを拾って、中の水をば、コラサノサ!(と周りの人に掛ける) 駆けて逃げてったよ。 弁当を置いてったぞ。 油揚げ、豆腐の煮たの、旨い。 トーフの方から来た、アブラゲのない内に、帰えろう。

 鐘がなった。 出たよ、ムクドリ(椋鳥)。 カラスは風邪引いたんだ。 このあたりの葦をかき分けて、骨(コツ)を探せ。 酒、酒、今、かけてやっからな。  俺んちは、浅草門跡様の裏、乾物屋の横を入った長屋だ。 こっ障子に○に八と書いてあるからと言うのを、近くに舫った屋根舟の中にいた幇間、悪い奴に聞かれた。

 えーっ、こんばんは、こんばんは、えーっ、おやかましゅう。 年増だから、声柄が違うのか。 骨だろう。 いいから、上がれ。 どーも、大将、こんばんは。 愚(おろ)か、愚か、ご婦人と再会の約束。 障子破れて、棧ばかり。 まるで江の島だね、家の中にいながら、月見ができる。 お前は、いったい何だ? あっしは向島の新朝というタイコでござんす。 なに新町の太鼓、しまった、さっきのは馬の骨だったのか。