桃月庵白酒の「今戸の狐」2008/03/03 08:01

 雛祭の日に、桃月庵白酒(はくしゅ)の話である。 2005年の秋、五街道喜助 から、この名になった。 福々しくて、清潔な感じのする噺家だ。 「今戸の 狐」を、噺家の符丁から始める。 羽織を「ダルマ」、手拭が「マンダラ」、扇 子は「カゼ」、本職はあまり使わず、落研の学生などが使う。 女子学生が「い やだ、落研よ、ウツルわ」。 お客のことを「キンチャン」というが、前座でも 知らなかったりする。 渡世人の符丁で、さいころのことを「コツ」という。  動物の骨を使ったからで、ふつうの土を固めたのや木製ではない。 「コツ」 のさいころだから「コツのサイ」。

 中橋の三笑亭可楽の門人で良助、内弟子(ぜんざ)から二ッ目になって橋場 で自活することになった。 噺家だけで食えないので、師匠に内緒で今戸焼の 狐の人形の絵付けの内職をしている。 それを前の背負い小間物屋の、千住(コ ツ=小塚ッ原)の女郎上がりというかみさんに見つかり、教えてと頼まれる。

 中橋の師匠宅、内弟子が寄席で認められている仲入に売る籤の上がりを勘定 している音を、渡世人に聞かれる。 丁半でも、チョボイチでもない、狐だろ うと、見当をつけ、翌朝、可楽に「狐をやっているのはわかっているんだ、顔 を出すたびに、ちょっとこさえてもらいたい」と掛け合いに来る。 可楽に断 わられて、内弟子ののらくに聞けば、師匠は知らないが、狐なら橋場の良助の 所だという。  良助に掛け合うと、狐なら大きいの、小さいの、金張り、銀張り、と、やっ ているという。 見せろというから、人形を並べたら、「俺の言ってるのは、「コ ツのサイ」だ」「それは、お向かいのおかみさんでございます」という噺だ。

 桃月庵白酒は、よくやった。 それぞれの情景が、浮んでくる。 それでも、 面白い噺を聴いたという満足感が得られなかったのは、「今戸の狐」という噺自 体に欠陥があるのだろう。 みみっちい、貧乏臭い話である。 「狐」という バクチも、知らない。 一言で言えば、理屈っぽい。 いちいち説明しなけれ ばならないようなことが多く、それが落ちになっている。 余り演じられない 所以だろう。