平櫛田中と橋本平八の木彫を見る2011/11/07 04:49

 3日文化の日、前日の夕刊で上野の東京芸術大学大学美術館に、平櫛田中の 同館所蔵作品がすべて並んでいると知ったので、さっそく出かけた。 「彫刻 の時間―継承と展開―」展、6日までというのに、ぜんぜん知らなかった。 東 京芸術大学美術学部彫刻科は、竹内久一、高村光雲の二人の教授の指導で始ま った、前身の東京美術学校創立以来120年の歴史があり、数多くの彫刻家を輩 出している。 この展覧会は、彫刻科の現職教授の企画で、一つは、膨大な芸 大コレクションの中から名品を展示している。 飛鳥・白鳳の仏像から、近・ 現代の彫刻まで、日本彫刻の歴史を一望できる彫刻が選ばれている。 その歴 史に、私の好きな円空は外せないのか、三重県立美術館蔵の「釈迦如来坐像」 と個人蔵の「地蔵菩薩立像」が加えられていた。 もう一つは、名誉教授、現 職教員の作品で、空間を意識的に使って、現代の彫刻のあり様、此処の彫刻観 の違いを提示する、というものだ。 精緻な名品の数々を見たあとで、この部 屋へ行って、「お呼びでない」と違和感を感じたのは、私だけではないだろう。

 展覧会が目玉にしているのは、お目当ての平櫛田中29点と、橋本平八の17 点である。 平櫛田中は、ポスターになっている「五浦釣人」始め「活人箭」 「尋牛」「鏡獅子」「禾山笑」「烏有先生像」「島守」など記憶に残っている作品、 総高2m40cmに及ぶ「転生」もあり、田中の心を通じて良寛、一休、芭蕉、蕪 村(夜半翁)、源頼朝に、その眼を通して橋本雅邦夫人、裸の六代目尾上菊五郎、 三井高福、岡倉天心、市村瓉次郎博士、浅野長勲公に、お会いすることができ た。 それは、濃密で、幸せな時間だった。

 平櫛田中(1872~1979)が107歳まで生きたのに対し、橋本平八(1897~1935) は38歳で死んでいる。 手元に1999年10月の芸大美術館開館記念「所蔵名 品展」の図録があり、今回も当然あった「花園に遊ぶ天女」(1930(昭和5)年) の解説(横山りえ)に、こうあった。 「伊勢に生まれた平八は、神秘性の強い 宗教的感情と詩精神を持ち、そうした自己の意識と世界観が投影された独特の 雰囲気を持つ木彫作品を、十余年の短い間に数多く残した。 「花園に遊ぶ天 女」は、膝を少し曲げ小首を傾けて耳をすます少女の肌には、一面に花びらと 蝶が線刻されている。 台座の周囲には〈樹神〉〈風神〉など13の自然神の名 が刻まれており、平八独自の造形感覚と観念的発想が、全裸の少女を「天女」 という超越的存在にまで高めて、見る者を幽玄の境地にひきいれる。」