井上荒野さんの『キャベツ炒めに捧ぐ』2011/11/09 04:20

 穴子つながりである。 明石の知り合いから、焼き穴子を沢山送ってきたの でと、お裾分けにもらった。 どう料理するか、という話が井上荒野さんの『キ ャベツ炒めに捧ぐ』(角川春樹事務所)に出て来る。 2008年に『切羽へ』で直 木賞を取ったこの人、『ひどい感じ 父・井上光晴』という本がある。 焼き穴 子は、茶碗蒸しもいいし、うざくみたいにしてもいいし、ちらし寿司もいい。  中華風の薬膳に、一口大に切って、軽く片栗粉をつけて揚げてから煮込むのも あるらしい。

 東京の私鉄沿線の、各駅停車しか停まらない小さな町にある「ここ家」とい うお惣菜屋さんの話である。 六十代の三人の女性が働いている。 十一篇が それぞれ、主人公を変えていきながら、別の視点から描く構成が巧みだ。 雑 誌連載時の季節に合わせて、旬の食べ物があり、物語がある。 今は各々一人 暮ししている三人だが、六十代ともなれば、それまでの人生にいろいろなこと があった。 人間、どんなつらい時でも、食べないわけにはいかない。 早い 話が、家族が死んでも、まず考えるのは、集まった人が何を食べるかだ。

 時に登場する惣菜屋のメニューの一部が、美味しそうだ。 「たたきキュウ リと烏賊と松の実のピリカラ和え」、「昆布と干し椎茸のうま煮」、「ロール白菜」 (鶏と豚の合挽を白菜で巻いて、中華風のクリームスープで煮込んだもの)、「新 じゃがと粗挽きソーセージのにんにく炒め」、「水菜と烏賊のサラダ」、「牛すじ 大根」、「牡蠣フライ」、「あさりフライ」、本日の味つきごはん「じゃこ入り大根 菜めし」。

関東で「がんもどき」、西のほうでいう「ひろうす」(飛竜頭)の作り方も、出 て来る。 じゅうぶんに水切りした木綿豆腐を、すり鉢でむにむにと潰し、刻 んでおいた海老と椎茸を混ぜ込む。 続いてゆり根を入れ、塩少々と黒ごまも 加え、ゆり根が崩れないようざっくり混ぜて、丸めて揚げる。