郡司元大尉と日露戦争、カムチャツカ(2) ― 2014/06/13 06:25
郡司のカムチャツカ上陸から、事件の発生までかなりの日数がある。 その 間、郡司が何をしていたのか、郡司の報告書「明治37年6月勘察加(カムチ ャツカ)に進出後の顛末」に、それはない、舟川さんは関係者の史料から補足 する。
カムチャツカに同行した報效義会員小田積美(もりよし・直太郎の次男)は、 郡司が小高い丘に「天長地久日本領報效義会員占領地」という標柱を建て、教 会に日章旗を掲げたと証言している。 銘文は「大日本占領地」、「日本帝国占 領地」など、諸説がある。 柱に打ち付けられていたという掲示板は、今でも そのレプリカがペドロハヴロフスクの博物館にあり、ロシア語で「この土地は 日本のものである。そしてこの板にふれる者は殺さるべし。部隊指揮官 郡司成 忠」と書かれているという。
7月1日、報效義会の傭船、大島丸が義会員5名、雇漁夫16名、従来占守島 に居住していた漁夫長1名を乗せてオゼルナヤ川河口に入った。 一行は定置 網を河口近くに設置して鮭鱒漁に従事した。 7月20日には、偶然オゼルナヤ 川に来た漁船、幸吉丸が郡司の許可を得て、一行の漁に参加した。
7月28日に郡司たちが捕縛された後、29日ロシアの部隊は通訳2名を連れ て、オゼルナヤ川の漁舎を襲い漁夫15名を殺した(通訳2名も殺害された)。 2名の漁夫が難を逃れて、30日未明、報效義会員の天幕に駆け込み、急を伝え た。 会員が急行して、15名の遺体を発見して埋葬、それ以上の捜索は危険と 判断し、8月11日には占守島に帰った。 郡司は8月20日に、ペドロハヴロ フスクに連行され、翌年4月からはミリコヴォ村で約半年幽閉されたのち、12 月上旬小田と共に日本に帰還した。
舟川はるひさんは、こう考える。 当事者の証言から、郡司の一行が正規兵 でなかったことは明白である。 鳥羽丸と幸吉丸の乗組員と大島丸に乗船して いた出稼ぎ漁夫達は義勇兵ですらないだろう。 彼等が敵地で行ったのは漁業 だけで、戦闘の意志があったとは考えられない。 しかし、郡司と報效義会員 を彼等と同一視することはできない。 郡司等は武力侵攻こそしなかったが、 敵国の領土に日本国旗を掲揚し、日本の領土であると宣言した標柱を建てた。 これは紛れもない政治的行為である。 郡司と報效義会員の目的は、漁業でも なく、ただの敵情視察でもなく、交渉によりカムチャツカの領土(一部ではあ るが)を獲得することだったと考えられる。 郡司はなぜそのような行動に出 たのか。 また、日本政府は彼の意図と行動を事前に知っていたのだろうか。
郡司は1903(明治36)年春『中央公論』に発表した論考で、カムチャツカに ついて、こう論じている。 ロシアは樺太千島交換条約で千島を手放したこと を今になって後悔している。 千島を日本に与えたために太平洋への通路が遮 断され、そのためカムチャツカの防衛が困難になったことに気づいたのである。 千島は軍事上のみならず商業上から見ても価値がある。 オホーツク海やベー リング海での遠洋漁業の根拠地になる。 千島の中でも日露双方にとって重要 な意味を持つのが占守島である。 ロシアから見れば占守島がカムチャツカ全 半島の死命を制していると言っても過言ではない。 日本から見れば占守島が 以南の千島及び北海道の死命を制しているといえる。 占守島に防衛拠点を置 く意味はここにある。 天然資源の宝庫、カムチャツカは世界中から注目され ている。 日本にとって特にその水産資源が魅力であるが、何もカムチャツカ の土地を武力で奪う必要はない。 利権を取れば同じことである。 私は、千 島発展のためには、占守島までの定期航路を開設することが急務であると政府 に訴えてきたが、政府は冷淡で実現の見通しは暗い。 実に情けないことであ る、と。
舟川さんは、郡司が他国に千島(特に占守島)を奪われるかもしれないとい う危機感を持ち、危機意識の薄い日本政府に対し焦燥感を抱いていて、その思 いが、日本の安全と利益線の拡大のためにはカムチャツカを制しておくべきだ という考えに発展した、と想像する。 その一方で、カムチャツカ住民に対す る親愛の情から、武力によらず、交渉による領土獲得という発想をしたのだろ うと考える。 カムチャツカの土地の一部でも獲得しておくことが国益に繋が ると信じた、国家に対する使命感が郡司成忠を突き動かした、というのだ。
コメント
_ 舟川はるひ ― 2014/06/13 15:39
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