文化勲章「御礼言上書」の添削 ― 2014/06/25 04:44
丸谷才一さんの『別れの挨拶』に戻る。 2011年に文化勲章を受けた時の話。 五人の受賞者のうち、最年長らしく、最初にいただくことになった。 予行演 習がある。 宮内庁の役人たちは慣れたものだが、こちらはいっこう要領を得 ない。 得心がゆかないうちに本番になる。 たとえば、最敬礼というのの角 度がどうもよくわからない。 仕方がないから深々とやったら、テレビを見た 姪に、「叔父ちゃんがあんなに丁寧なお辞儀をするのをはじめて見た」と言われ た。
このあと、お礼言上の役も務めた。 「そちらで用意なさる文面があるので しょうか、その通り申し上げねばいけないのですか?」と訊ねた。 一字一句 そのままと言われたら、それを理由に断るつもりでいたのだが、違えてもいい ということだったので引き受けた。 向うの用意した文面は、こうである。 奉 書に達筆で、もちろん墨で書いてあり、きちんと折った紙に包み、「御礼言上書」 と上書きしてある。
「このたびは文化勲章を拝受いたしまして私共の栄誉これに過ぐるものはご ざいません/私共はこの栄誉を体しそれぞれの分野において一層精進を重ねる 決意でございます/ここに一同を代表し謹んで御礼申し上げます」
丸谷才一さんは、こういう原稿をしたためた。 いつも使う二百字詰の原稿 用紙に万年筆で書き、スマイソンの封筒に入れた。 上書きはなし。
「このたびは文化勲章をいただきまして、まことに光栄なことでございます。 /わたくしたちはこの光栄を喜び、それぞれの仕事にこれまでどほり励んでゆ きたいと存じます。/一同を代表して謹んで御礼申しあげます。」
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