国や組織が誤った方向に動き出した時、個人は?2022/03/04 07:08

 そして12月14日、堀川恵子さんの『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』の大佛次郎賞受賞の記事(これも福田宏樹記者)に接したのだ。 見出しは、「「輸送」軽視した戦争 掘り起こす」「膨大な手記 浮かぶ「組織と個人」」。  物語を根底で支えた一つが、田尻昌次司令官の残した未発表の膨大な手記で、破滅への道がデータと共に刻まれていた。 多くの関係史料を読み込み、船舶免許まで取る徹底した取材で成った本書は、田尻ら現場をよく知る者をよそに「ナントカナル」で突き進んだ無謀な戦争だったことを具体的に明かしている、という。

 堀川さんが見つけて震えたという田尻の意見具申の文書には、上層部に船舶輸送の危機的状況を伝え、このままでは立ちゆかなくなると警鐘を鳴らしていた。 田尻は更迭された。 「大きな集団が誤った方向に一斉に動き出した時、現場の人間はどう振る舞うか。どう立ち向かうのか、立ち向かわないのか。旧軍に限らない話だと思います。」

 イデオロギーによらず、史実を発掘して吟味し、歴史と人間に誠実に向き合うことを自身に課して取材に走る。 4年前に亡くなった元NHKプロデューサーの夫、林新(あらた)さんの教えでもあった。

 礼賛にも批判にも傾かない筆致から浮かんで来るのは、国家と個人、組織と個人という普遍的な問題である。