扇屋の花扇、柳家喜多八の「盃の殿様」前半2023/01/13 07:19

 「廓噺山名屋浦里」の結末のような「傾城に誠あり」の落語は、「幾代餅」「紺屋高尾」がすぐ思い浮かぶが、ずばり扇屋の花扇が登場する「盃の殿様」という噺がある。 殿様が、「全盛花競べ六花撰」の錦絵を見て、吉原に素見(ひやかし)に行き、花魁道中を見て、京町一丁目扇屋お抱え花扇が気に入るのだ。 2016年5月17日に亡くなった柳家喜多八が、その前年の1月20日の第559回落語研究会で演じたのを、書いてあった。 長くなるが、とぼけた味が好きだった喜多八のそれを引くことにする。

      喜多八「盃の殿様」の前半<小人閑居日記 2015.1.25.>

 黒紋付だが、黄色い裏地の覗く喜多八、私の方も規則正しい不摂生で通している、と切り出す。 お大名も、そうそう我儘は利かない。 五つ(午前8時)には江戸城に行った。 やることは決まっているが、座布団なしで、お茶も飲ませてもらえない。 だから、患っているふりをして、とぼける。 剣術、馬術などは、「病気である」。 腰元にお手、「病気である」。  茶坊主の珍斎が、「全盛花競べ六花撰」の錦絵をご覧にいれた。 絵空事であろう。 いいえ。 吉原とやらに、傾城を求めに参るぞ。 重役の弥十郎さんが、お止まりを。 殿様は、胸が苦しいと、ふて寝。 重役が相談をして、行くことになった。 格式があるから、総勢360人、金紋先箱の大行列で素見(ひやかし)に行く。 さすがに、吉原(なか)はご近習が30人、医者、お留守居役(この人は普段から遊びが商売だから詳しい、領収書は白紙で持って来い。「上様」としましたが…。これなら、よい。)、警護の者は脇差に手をかけている、嫌な素見があったもので…。

 花魁道中を見る、江戸町一丁目玉屋抱え白鳥、江戸町二丁目丁字屋抱え小紫、角町厄介屋抱え手古鶴(町と妓楼の名は覚えられず、筆者が勝手に書いた)。 殿様は京町一丁目扇屋お抱え花扇が気に入った。 ならぬと申すか。 松の位の太夫職、花も活ければ炭団(タドン)も埋ける、俳句も和歌も詠む。 殿様、胸が苦しい、頭が痛いをやって、花扇と会うことになる。  花扇、横を向いていて、相手にしない。 銀の煙管に煙草をつめて、一服つける。 まるっきり、殿様は相手にしてくれない。 放置プレイというやつ。 見識がある。 軽く会釈して、目と目が合うと、にっこり笑った。 あふれんばかりの愛嬌に、殿様、ぶるぶるとなって、一泊いたさんと、と言い出す。 ツムリが痛い、が始まって、ご一行お泊りとなる。 扇屋は、相撲協会じゃないけれど、満員御礼。 殿様の病も、全快する。

 弥十郎、裏を返さんと、客の恥辱になると聞く、当家は戦場で敵に後ろを見せたことのない家柄じゃ、今宵も参るぞ。 殿様は、近頃ないベスト・コンディション。 花扇が余の膝をつねりおった、痣(あざ)になっておる、苦しゅうない、見せてとらすぞ。 花扇は、今度はいつ来てくんなますか、弥ジさんは恋を知らぬ憎い人と申した。 これは失態である、詫びに参るぞ。 と殿様は、すっかり助六気取り、毎晩吉原に通い詰めることになる。

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