三遊亭小遊三の「汲みたて」2023/12/27 07:14

 仕事があって、余暇に趣味、道楽がある、今はカルチャーセンター、昔は稽古所というのがあった。 噺家は、趣味が仕事になったようなものだから、5年から10年は仕事から離れられない。 めりはりがない、力を入れない、虚しいかな。

 稽古所は、女の師匠だと弟子が来るが、男の師匠だとなかなか食べられない。 女の師匠には、あわよくば何とかしようという「アワヨカ連」、「蚊弟子」といって蚊がいなくなる頃にはいなくなる、やぶ蚊みたいな奴がいた。 炬燵は日本独特のもので、パリでは見かけない。 師匠が炬燵に手を入れると、四方から手が伸びて、ちょっかいを出す。 指が、二本、三本、四本と触れて、握ると、握り返してきたりする。 へへへ、有難いぞ。 師匠、お昼のごはんが出来ましたから。 ハーーイ! 行ってらっしゃい。 炬燵の手は、お前の手かい。 放せ! せっかく握ったんだ、指相撲でもしよう。

 よっちゃん、朝稽古かい。 俺、歌をやめたよ。 豚が喘息患ったみたいな声だからな、何をやってる。 三味線、一つとや、テンテンテン。 いいよ、見台がないだろ、よく間違えるから、師匠が指を触ってくれる。 同じ月謝なら、割安だ。 師匠が洗い髪で、八畳敷き、立膝して裾がひらひら、風が吹けばいいんだが、あてにならないんで、俺がフーーーッとやったら、師匠に見つかって、撥(バチ)で叩かれた。 ご開帳をタダで見ようとして、罰が当たった。 よしねえ。

 師匠に男が出来た。 誰だ? 建具屋の半公。 格子が開けっ放しになっていて、奥の火鉢に半公、甘納豆を食っていた。 鉄っちゃんも一ついくかいって、他の菓子盆を出したら、干からびている。 半公が立ってって、師匠と二人で縁側でヒソヒソ話をしてる。 俺は、這ってって、半公の甘納豆を食った。 お多福豆は、良い。

 婆やが宿りに行っていて、与太が寝泊りしているんだ。 与太、口を閉じろ。 口を閉じたら、息ができない。 鼻で息をするんだ。 象は大変だな。 いろんな男が出入りするだろうが、泊っていく奴は誰だ? アタイだ。 半さんと師匠は仲がいいだろ。 こないだは、喧嘩してた。 口喧嘩か? 半さん、師匠の横っツラを、バーンと。 アタイは止めようとして、横っ腹を蹴飛ばされて、気を失った。 さっきは、乱暴してすまなかった。 好きな人に、ぶたれるのが嬉しいわ。 与太、先に寝てろ、師匠と話がある。 アタイは、眠くなって、寝てしまった。 今度、師匠と半さんとアタイの三人で、屋根舟で夕涼みに行くんだ。 有象無象がいると、何かと面倒だよって。

 有象無象、集まれ! 稽古所を開く時、師匠は何と言った、木から落ちた猿も同然、町内の皆様、どうぞよろしくお引き回しを、と。 俺たちも夕涼みに、音の鳴る物を持って行って、キーキー、ドンドン、パーパーやろう。 私も、行きます。 豆腐屋の源さんか。 当方、ラッパがある。

 ひとけのない所に、屋根舟。 キャア、キャア、プー、プー! 変な舟が、ついてくるようですが。 テケドンドン、キーキー、パーパー、プー、プー! アハハ、有象無象だ。 半公を出せ! 書留でも、届いたか、与太どけ! 建具屋の半治だ、何か文句があるか。 手前は、いい男だな。 ご機嫌だな。 俺たちは、この暑さに屋根のない舟で…、一言、筋を通したらいいだろう。 クソでも、食らいやがれ! クソ、持って来い。 すると、おわい舟がスーーッと入って来て、「汲みたてだが、一杯どうだ!」

 小遊三、高座を下りて、袖で立ち止まり、お辞儀して引っ込む。

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