扇遊の「木乃伊取り」後半2011/03/08 07:19

 帰りたい気持になったら、帰るからという若旦那に、清造は見てもらいたい ものがある、と言う。 お袋様のお巾着だ、お袋様は眠れないといって、一晩 中泣いている。 巾着だけ置いて、お前は帰れ。 そうはいかぬと、しつこい 清造に、若旦那は暇を出す、と言う。 暇もらうべえ、もう主人でも、家来で もない、このバカヤロ、なぜ帰らねえ、腕づくでも引いて帰る、おらは村相撲 で大関を張ったんだ、手ぇついて頼んでいなさるお袋様が可哀相だで…。

 帰るよ、帰るよ、と若旦那、この家も縁起商売だ、一杯飲んで、笑ったとこ ろで、サァーッと帰ろう。 清造、大きなやつで一杯やれ。 昼間から飲んだ ことはねえが…、でけえね、真似事で…、こんなにいっぱい注いじゃって、頂 戴します。 清造、もう一杯やんな。 また、こんなに注いで、口からお迎え だ、ハ、ハ、うめえ酒だな、こうだな酒、飲んだことがねえ、てえしたものだ なあ、一合どの位するのかのう、見栄の場所だから、訊いてはいけねえって…。  もう一杯、駆けつけ三杯という。 酔っ払っちまっとるというのには、ちょっ くら足りなかんべえ、目出てぇーや。 お酌をしてくださる、すんませんね、 きれいなアマっ子だね。 お前の敵娼(あいかた)だ。 心から堅い人のそば に出られて、初会惚れしてしまったわ、たのもしい人、手も毛だらけで、もく ぞう蟹みたい。 おらかてぇー、手もマメだらけ、爪で叩けばカチカチいう。  きれいな手をしていなさるな、手を握ってくだせえ。 「かしく」、握ってやん な。 よすべえー、よー。 くすぐるな。 そろそろ、帰ろうか。 帰ぇーれ ってか、おらの方は、あと三日ばかりいるので、先に帰ぇーって下せえ。

 ふと「木乃伊取りが木乃伊になる」の語源が、気になった。 吉村作治先生 のような人が、落盤か何かで閉じ込められた結果をいうのだろうか。 プログ ラムの田中優子教授の解説によると、「木乃伊」そのものが薬で、中国の『本草 綱目』「人部第五十二巻」に、骨を折って動けなくなった人が木乃伊を少々服し て、だいぶ良くなったとあり、ヨーロッパではもっと盛んに薬として使用され ていた、「取りに行く」価値のあるものだったのだそうだ。