歌武蔵の「らくだ」2011/11/03 04:19

歌武蔵、毎度私が苦言を呈していた「只今の協議についてご説明いたします」 も、「“かぶぞう”とか、キャバクラと読んだ人までいる」も、「本名は松井秀喜 と申します」もやらずに、いきなり噺に入った。 それだけではない、この「ら くだ」は抜群の出来だった。 このところ落語研究会が、歌武蔵をよく使う理 由がわかったような気がした。

プログラムの長井好弘さんによると、桂文珍の型だそうだ。 東京で死人(し びと)の「カンカンノウ」というのを、「かんかん踊り」という。 らくだが死 んだと聞いて家主が喜び、「頭、つぶしとけ」というあたりも、上方風かもしれ ない。 フグに中って死んだらくだの兄貴分の名は、ノーテンの熊五郎、傷の 見本みたいな顔をしている。 屑屋が背負って行き、家主の所へ担ぎ込むらく だを、塀に立て掛けさせ、鉢巻をし、片肌脱がせ、目を開けさせる。

屑屋は、大家が届けて来たいい酒を飲んで、だんだん様子が変わってくる。  「親方は他人(ひと)の世話焼いて、面倒をみて、大変な方だ、立派だ。 それ も全く何もないところから、これだけ揃えるんだから、立派。 すみません、 もう一杯。 上の方がこれだけ空いている。 なみなみと、注いでくれ。 上 の方が空いているって、言ってるんだ。 わからねえか。 らくださんは幸せ だ。 三日ほど前、雪舟のねずみが手に入ったという。 涙を足の先につけて 描いたっていうねずみだ。 ついそばに行くと、手の上にどぶねずみを乗せた。  せっしょうな、ねずみですよ。 親方は立派だ、大したもんだ。」「お前、商い に行かなくていいのか。 釜の蓋が開かないんじゃないのか?」「俺のこと、只 の屑屋だと思っているんだろう。 浅草の並木で、三人ほど使って、道具屋や っていた。 こうなった訳はみんなこれ(酒)だ。 かみさんは器量良しで、女 の子が出来た。 酒でしくじって、とたんに裏長屋。 かみさんが風邪引いて ポックリ、二十四だった。 残ったのが三つの娘、俺が商いをして帰るのを、 外で待っていてくれた、手が冷たい。 で、後添いをもらった、丈夫な…。 こ れがいい女で、男の子が生まれたが、飴や饅頭を、まずはお姉ちゃん、俺の連 れ子にと、細かい気配りをする。 聞いてんのか、このやろう。 人間として 一番大事なところだ、酒ばかり飲んでやがって…。 俺は日に三合は飲まない といられない、かみさんは橋を渡って、ハカリのいい酒屋まで買いに行く、ど んなに雨が降ってもだ。 どうしても飲みたいんだ、それぐらい好きなんだ。  お前、何、うつむいてんだ、いい奴だな、お前、泣いてんのか。 兄弟になろ う。 らくだの湯潅をしよう。 手伝ってくれるか。 頼むぜ、兄貴って、何 で言えねえんだ。 アタリ金で、頭を剃ろう。 表に出た所に女二人住んでい る家がある。 剃刀借りて来い。 いやだと、言ったら…。」