桂藤兵衛の「薙刀傷」2011/11/04 05:09

 桂藤兵衛、彦六になった正蔵の弟子で上蔵といっていたが、師の死後、橘家 文蔵一門に移籍した。 「薙刀傷」は珍しい噺、聴いたことがなかった。

 昔あって、今はない「恋患い」、女は絵になるが、男がまいっているのを見る と、止めを刺してやろうという気になる。 手代の久七、旦那に今度の医者は 大丈夫、大船に乗ったような気持で、と報告する。 こないだの先生の時も、 そう言った。 あの大船は岩にぶつかった。 今度の先生は、若旦那のお腹の 中に徳利があって、栓がしてある、それを抜けば、全快だという。 もやもや の原因は「恋患い」。 旦那は、おばあさんに、生意気だ、十九歳は早すぎる、 と。 お前さんが、私を口説いたのは、十八の時。 桃栗三年柿八年、柚子は 九年でなりかかる。 寄席で憶えた、寄席は為になる。

 相手の娘は、素人、ごく近い所、裏の一番汚い長屋の一番汚い家、掃き溜め の前、易者をしている御浪人三輪惣右衛門さんのお嬢さん。 あれ倅だと思っ ていたよ。 若旦那は、気立てのよさ、気持に惚れた。 番頭は旅先なので、 手代の久七、私が行って下話をしてきます、大船に乗ったつもりでいて下さい。  羊羹か煎餅でも持って行くか、と旦那、十両くらいと、久七。 武士にお金は どうか、と心配する旦那。

 裏の伊勢屋から、参りました。 その顔じゃあ、縁談は無理と言われた久七、 実は若旦那の新太郎で…。 (十両を出すと)だまらっしゃい、十両で娘を買い に来たのか、ならん。 引き換えに、お前から貰いたいものがある、首をくれ。  刀、持ってまいれ。 これっぱかしも、苦情は言えません、首、差し上げます、 あっさり、スパッとやって下さい。 こう見えても、刀はよく手入れしてある、 取れ立ての秋刀魚みたいだ。 もそっと近こう、斬るぞ、ところで久七、ふた 親はご健在か、もういない、なら斬るぞ。 ヒヤッ、ハーーッ、何をしておる。  お前は忠義者だ、娘はやろう。

 ご婚礼となり、店を若夫婦に譲って、大旦那は隠居所へ。 でも、いいこと ばかりは続きません。 ある晩、ちょっと開けろ、番町の屋敷から参ったと、 刀を持った賊が三人、店の者を縛って、若旦那の部屋へ。 起きろ、金蔵(かね ぐら)に案内しろ、開けました、縛っておけ。 隣の部屋に寝ていたお嫁さん、 緋縮緬の長襦袢で、たった一つの嫁入り道具の薙刀を長押から取り、一人の肩 先をスパッと、中で仕事していた二人が斬りかかるのを、体をかわして、一人 は腿(もも)の所を、もう一人は刀の手をポンと…。 大変強い嫁さんだ、巴御 前の化身か、和田アキ子ですよ。 「おれは肩先八寸」「おれは腿を三寸」「お れは指を一本やられた」三人そろって「腿傷三寸肩八寸、指は九本になりかか る」