文菊の「稽古屋」前半2012/12/07 06:47

 出囃子が鳴っても、なかなか出て来ない。 ようやく、例によって腰を落と して、出た。 襲名披露の50日間で、すっかり痩せ細って、こういう姿、と。  見習いの前座の頃、師匠円菊の家に朝7時頃までに行く。 掃除をしていると、 師匠はテレビを見ながら、何か言っている、うなるようにブツブツと。 何を 言っているのか分からないが、毎日毎日聞いていると、分かるようになる。 「ゾ ーサン、ゾーサン、オハナガナガイノネ」。 師匠も、いろいろと稽古をしたの だろう。

 町内の五目の師匠、若くて器量のいいほうが、流行る。 炬燵の中で、師匠 の手を握る。 好きなら、握らしておくし、どうかすると、握り返す。 手を 握って喜び、炬燵に入っているほかの奴、馬鹿だねえ、空気を読めよ、と思っ ていると、師匠が立つ。 えへへ、お前か、これ。

八っつあんが、隠居に相談に行く。 友達は大勢ショテエ、カカアを持って いる、アッチはいない、どういうわけか。 もてる条件は、一・見栄、二・男、 三・金、四・芸というな。 一・見栄、見栄えなりかたちだな、ちびた下駄、 地べたに鼻緒を据えたような下駄は駄目だ。 二・男、顔かたちだ、お前は不 思議な顔をしている。 三・金、お前は「潜水艦」、「ナミノシタ」だ。 四・ 芸、何かあるか? 町内で踊りの三代目と言われている。 ○○屋のご隠居が 初代、豆腐屋の源さんが二代目、宇治の蛍踊り。 赤い手拭をかぶり、身体を 真っ黒に塗って、着物をパッと脱ぐ、長襦袢も、肌襦袢も、フンドシも脱ぐ。  ケツッペタに、蝋燭を灯して、「ホー、ホー、ホタル来い」。

あきれた隠居、稽古屋の師匠を教えてくれる。 米屋の角を曲がって、三軒 目、女、歳は三十三。 月謝の一円、お膝付、入門料の一円、それは受け取ら ないから、後で返せと、二円貸してくれる。 (三味線の音がして)御神燈が 下がっている稽古屋へ、手下、子分にしてもらいたい。 お弟子さんですね。  八五郎ってもんで、岩田の隠居に聞いて来た、これが「膝張り手」「膝押し」で。  これは頂かないようにしていたんですが、町内の頭、辰っつあんにエライ剣幕 で叱られた、遠慮なく頂戴しておきます。 あらら、借金が二円になっちゃっ た。