気持が苦しくなったら、すること2015/06/22 06:30

 車谷長吉さんは、この世は苦の世界だという。 田舎の高等学校3年生の初 夏、『こゝろ』を読み、将来、夏目漱石のような作家になりたいと決心してから、 53歳で強迫神経症になるまで、1日4時間以上眠ったことは、一度もない。 た だひたすら勉強する日夜だった、そうだ。

 48歳の時、詩人の高橋順子さんと結婚したのは、救いになったようだ。 「嫁 はんは懇切丁寧な人なので、よかった、と感謝しております。」という。 気持 ちが苦しくなると、「気晴らし」をすると、いろいろな相談の回答に書いている。  嫁はんと一緒に、というのが多い。 強迫神経症は、3年ぐらいの病院通いで、 7割、快くなったが、「嫁はんには深い不安と、苦悩を味わわせました」。 病 院からの帰りには必ず途中下車して、二人でお酒を呑んだ。 二人とも酒が好 きで、これも効き目があったと思う、という。

 郊外の川の土手などに、嫁はんと一緒に散歩に行く。 家でおにぎりなどを 作って持って行き、草の上に座って食べ、そのあと草の上に寝転んで青空に浮 かぶ白い雲を見ていると、心がとても澄み切ったようになってくる。

 もうひとつ、世の中の困っている方々がほんの少しでも救われるようなこと をすれば、それで自分も、ほんの少しだが、救われたような気持ちになれるこ ともある。

 60歳のとき、夫婦でピースボートに乗って、世界一周旅行に行った。 さほ ど費用はかからなかった。 その3年後には、四国八十八ヵ所巡礼に行き、三 ヵ月間ほど「歩き遍路」をした。 すると心身ともにすごく快適になった。

 奈良の大和盆地を歩くのもよい。 法隆寺のようなお寺だけでなく、箸墓古 墳とか、山辺(やまのべ)の道、春・秋の吉野の西行庵・蔵王堂など、心静ま る時間が得られる。 田んぼの畦道で休憩したり、おにぎりを食べたりすると 楽しい。 一年に一度、少し高い夏山に登る。 哲学教授で登山家の友だちが 連れて行ってくれる。 山の中で歌ったりすると、阿呆(あほう)がいると人 に笑われたりする。 「この世は阿呆になることが一番楽な道です。」

 「自分の全部が大嫌いです」という高校2年生、16歳女子への回答。 「人 生にはさまざまなことがありますが、自分が阿呆になることが一番、大事です。 /これはなかなか納得してもらえないと思いますが、かなり気持ちが楽になり ます。/阿呆なこととは、たとえば詩や小説を書いてみるとか、流行のおしゃ れやお化粧をして町の中を歩いてみるとかすることです。/友だちをさそって、 さっそく繰り出してみませんか。」