古今亭志ん陽の「疝気の虫」2017/05/03 06:35

 太目の志ん陽、志ん生、志ん朝と一文字しか違わないけれど、と言う。 太 陽の陽で、手偏の揚だと、揚げ物のようになる。 医学の進歩は著しいが、急 に具合が悪くなると大変だ。 家内が具合悪くなったので、近くの先生を急に 呼ぶ。 よろしくお願いいたします、私は店の方におりますので。 大丈夫か な、初めての先生、大分苦しんでいるようだが…。 すみません、栓抜きはあ りますか。 はい、これを。 ヤットコはありますか。 はい、どうぞ。 ノ ミと金づちは、ありますか。 あることは、あるけれど、これ。 よろしいで しょう。 まだ苦しんでいるけれど、いったい、どこが悪いんですか? わか らないんですよ、まだ、鞄の鍵が開かないもんですから。

 四百四病の内に、疝気という男の病気がある。 腰が痛くなって、睾丸が腫 れる。 お医者さんに聞いたら、淋菌性睾丸炎かなと。 ある医者、畳の上に 虫がいるのを見つけ、火箸で押えた。 痛い、命ばかりは助けて。 誰だ? 私 でございます、本物の疝気の虫。 助けてくれたら、知ってることは教える。  人間の腰のあたりに住み、冷えるとわくわくする、皆様は腰がつって痛がる。 チントトトンと筋を引っ張ると腰がつる、パッパッパッと手の先についた針で つつくから痛む。

 好きな物はお蕎麦、食うと身体が冷えて、わくわくしてくる。 嫌いなもの は? プープー、ありませんね。 芝居が下手だな、火箸でぐいぐいやるぞ。  トンガラシ、触っただけで、半時で身体が溶ける。 それで別荘に避難する。 別荘? 陰嚢で。 印籠? 金の玉で。 それでわれわれは袋に感謝して、年 に一ぺん大掃除をする、陰嚢感謝の日。 噺家か。 そんな厚顔無恥な商売は しない。 先生、起きて下さい。 夢を見ていた。

 本郷の前田様からお使いで、疝気持ちの旦那様がお苦しみだそうで。 もり 蕎麦を五枚、唐辛子のお湯を用意してもらえ。 先生、主人が苦しんで苦しん で、腰が痛んですごいんです。 後ほど、奥方にお蕎麦を食べて頂く。 大好 物です。

 病間はこちらで。 先生、腰がつって。 チントトトンのせいだ。 腰の張 る痛みもすごい。 パッパッパッだな。 今日は治療法を変えます。 奥方は お蕎麦の匂いをご主人に嗅がせてから、お蕎麦を食べて、その息をご主人の口 に吹き込んで下さい。 それで、フーフって言うんですかね。 お蕎麦を食べ て、息を吹き込んで…。

 一方、疝気の虫。 おっ、蕎麦の匂いだ、楽しみだね、チントトトンのパッ パッパッ(下座の三味線が鳴る)、お蕎麦が来ないな、どっかに引っ掛かってい るのかな。 お蕎麦やー、お蕎麦やー、みんなで迎えに行こう、道が険しいな、 アバラの道だ。 気を付けろ、口へ出ちゃったが、お蕎麦はなかったよ。 お 白粉をつけた口があって、みんなあっちへ入って行く。 みんな、一、二、三 で、引っ越そう。 先生、口の中に何か、飛び込んで参りましたが…。 ご主 人は? 腰の痛みが楽になりました。 私の方は腰が痛くなってきました。

 お蕎麦だ、お蕎麦だ! 今日のは、富士そばかね。 わくわく(下座の三味 線が賑やかに鳴る)、チントトトンのパッパッパッ。 腰がしくしくと痛んで参 りました。 唐辛子のお湯を、一気に飲んで下さい。 チントト……、アーー ーッ、唐辛子だ、身体が溶けちゃう、別荘へ逃げろ、急げ、急げ、別荘、別荘、 (ひときわ大声で)ベッソーーーッ!!

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