柳家さん喬の「鴻池の犬」後半 ― 2022/10/09 07:31
おう、お前、どこへ行くんだ。 おいら、大坂へ行く。 江戸本所の角屋で育った、黒兄(あん)ちゃんが船場にもらわれて行って、小僧さんがだんだん餌をくれなくなった。 人間なんて、そんなもんさ、大坂を知っているのか? 知らないのに行く。 俺は、お伊勢さんよ、江戸の衆は一生に一度おかげ参りに行く。 旦那が体を壊して、俺が代わりに行く。 首から下げた、この札で、みんな餌をくれる、銭をくれる人間もいる。 一緒に旅をしないか。 お前、名前は? 白、ただ白。 俺はハチ、二人で行こう。
珍念、おかげ参りのお犬さんに、餌をおやり。 とっとこ、とことこ、とっとこ、とことこ。 箱根の山だ(三味線「箱根山」)。 気をつけろよ。 とっとこ、とことこ、とっとこ、とことこ。 雲の上から、山が見える、富士の山だ(三味線「♪頭を雲の上に出し…」)。 とっとこ、とことこ、とっとこ、とことこ。 海だ!(三味線「元禄花見踊」) ハチ、大きな松の木だな、松原だ、笠をかぶった清水の次郎長だ(三味線「旅姿三人男」)。 とっとこ、とことこ、とっとこ、とことこ。 いい匂いだな、桑名の焼き蛤だ(三味線「毬と殿様」)。 フワッ、フワッ、熱いけど、美味いな。 白、見ろ、大きなお城だろ、てっぺんに金の魚が逆立ちしてる。 お伊勢さんは、こっちで、大坂はあっちだ。 お別れだ、道中楽しかったね。 お別れか、ありがとう。
とっとこ、とことこ、とっとこ、とことこ。 どこ、行くんじゃ? これから船場や。 船場、船場、船場、黒兄ちゃんのいる所だ、この人に付いて行こう。 黒は、颯爽と裏の木戸までやって来た。 世の中、変ったことはないようだな。 一丁目と三丁目がまた喧嘩か、犬力(けんりょく)争いなんて、つまらない、仲直りしろ、旦那の下さった饅頭がある。 見慣れぬ汚い犬だな、あっち行け。 見慣れぬ犬、どっから来た? 江戸。 江戸はどこだ? 本所。 黒兄ちゃんに会いたくて。 隣は酒屋、向かいは荒物屋。 弟の白や。 黒兄ちゃんだ。 みんな、俺の弟や。 弟はんでしたか、えらいことしたなあ、あっち行けなんて。 よく来たな、白。 みんな、可愛がってやってくれ。
こーい、こいこい。 これ、お食べ。 これ、食え、てえ(鯛)の浜焼きだ、骨に気を付けろ。 旨かったか。 こんな旨いもの、初めて食べました、来てよかった。 兄ちゃん。 来てよかったな、白。 大丈夫か、死んじゃ駄目だ、寝てな。 これは、何? 鰻巻よ。 俺なんか、ここんとこさ、さっぱりしたものが食いたくなった。 柴漬けで、お茶漬けなんぞ。 これは? カステーラよ。 また「しーい、こいこい」の声。 黒が飛んで行く。 今度は、何? 下のぼんのおしっこだった。
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