春風亭朝枝の「たらちね」2022/11/01 07:01

 10月26日は、第652回落語研究会、今回も抽選で半分客を入れての公演。 幸い当たった仲間と3人で、久しぶりに天婦羅屋で食事をしてから入場。

「たらちね」           春風亭 朝枝

「長屋の算術」         桃月庵 白酒

「生きている小平次」     三遊亭 兼好

          仲入

「鹿の子餅」より「江戸小咄」 柳家 小満ん

「木乃伊取り」          入船亭 扇遊

 春風亭朝枝、初めて聴く。 鼠色の着物に、黒の羽織、きちんとしている。 縁といえば、ご夫婦、不思議なものだ。 10月、日本中から神様がいなくなって神無月、集まった出雲は神有月、縁結びの会が開かれる。 天神様、あなた筆が立つから、札を書いて。 その札が配られ、十九歳の提灯屋の娘、器量良し。 二十のローソク屋の息子がいるから、結んじゃいましょう。 あーあ、くたびれたね、三枚残った。 時間も晩くなったから、結んじゃいましょう。 これが三角関係になる。

 八っつあん! 大家さん、店賃ですか。 長屋36軒、独り者はお前さんだけだ、身を固めてみてはどうか? 何です。 おかみさんを持つ気はないか?とても、とても。 一人口は過ごせないが、二人口は過ごせる、というじゃないか。 ウチの婆さん、お前さんに夢中なんだ、大好きなんだ。 大家さん、この話、やめてもらいたい。 婆さんじゃないよ、婆さんの親戚でお屋敷に堅い勤めをしていた娘がいる。 歳は? 十八になる。 ラツは? えっ? ツラ、顔は。 十人並み優れている、可愛らしい娘だ。 先方は夏冬一通りの物を持って来る。

 話がうますぎると、落とし穴がある、訳があるんだろう。 実は、少しキズがある、言葉が丁寧過ぎるんだ。 何を言っているか、わからない。 私も先日、道で会ったが、「こんちょうより、どふうはげしゅうして、しょうしゃがんにゅうす、ほこうなりがたし」と来た。 「今朝より、怒風激しゅうして、小砂眼入す、歩行なり難し」だ。 ちょうど箪笥屋があったんで、「左様、すたん、ぶびょう、りんしち、くりとつ、〇〇〇〇〇〇だいし」と言った。 何? お袋の戒名だ。 それ、もらいましょう、そんなんなら、かまわない。 手を出すことはない。 今日下さい、今日、思い立ったら吉日という。 よく知っているな。

 昼間、話した娘さんだ、連れてきた、仲人は宵の口という、私はこれでお開き、おめでとう、高砂やーーっ、高砂やーーっ、じゃあね。 行っちゃったよ、いきなり、二人きりか。 どうぞ、ツラ上げて下さい。 ガサツもんだが、兄弟同様に、仲良く、よろしくお願いします。 必ず、御心、変ずるなかれ。

 あっしは、八五郎、みんなは八公と呼ぶ。 名前を聞いてなかった、名前はなんてんだ。 汝、みずからの姓名を問いたもうや。 そもそも我が父は京都の産にして、姓は佐藤、名は慶三、あざなを五光、母は千代女と申せしが、わが母三十三歳の折、ある夜丹頂の鶴の夢を見て孕めるがゆえに、たらちねの胎内を出でしときは鶴女と申せしが、それは幼名、成長の後これをあらため清女と申しはべるなり。 それ、一人前かい、覚えられないよ、書いてくれ。 そもそも我が父は京都の産にして……、ナムミョウ、チーーン、ご親戚の方からご焼香を。 湯へ行く時も、火事の時も、困る。 まあ今日は、寝ちまおう。

 朝になる。 先に起きて仕度を始める。 「アーーラ、わが君。アーーラ、わが君」。 「しらげのありか、いずくにありや」 しらみはいないだろう。 しらげ、ヨネのこと。 よねのこと、知ってんの? 人名にはあらず、コメのこと。 こめかい、米櫃はなかりけり、みかん箱に入ってる。 汁の実に何か。 「ねぎやー、ねぎ!」 門前に市をなす賤(しず)の男の子や、男の子。 そもじじゃ、白根草、値はいかほどか。 百で。 ただいま旦那様に伺うゆえ、門の関根に控えておりゃれ。

 アーーラ、わが君。 日も東天に出御ましまさば、うがい手水に身を清め、神前仏前に御燈明(みあかし)を供え、御飯も冷飯に相成り候えば、早く召し上がって然るべう存じ奉る、恐惶謹言。 飯を食うのが恐惶謹言なら、酒を飲んだら酔って件(くだん)のごとしか。

桃月庵白酒の「長屋の算術」2022/11/02 07:10

 収録だからメークをする、と始めた。 血色はいい、この体形だからほてる、赤みをおさえる。 冬場、暖房とライトで暑い、汗をかき、冬の噺がしづらい。 まだ、そろそろ長袖かなという感じだが、まわりを見て、薄手のダウンを無理矢理着ている。 本当は着たくない。 暖房で汗をかくので、風邪を引きやすい。

 楽屋に女性の前座が増えてきた。 以前は、その下着何日着てんのというのもいたが、服装が変わってきて、お出かけみたいなのを着るようになった。 お囃子さんも前は、もうそろそろ、もういってる、だったのが、若い方が増えてきた。 見られている、いいの着なきゃあ、という見栄が出て来る。 住みたい町ランキングというのがあって、たとえば神楽坂。 江戸川橋の前でも、神楽坂と言い張る。 だが、それほどよくはない。

 みんな、集まったか。 はい、大家さん、でも、ない袖は振れない。 店賃の話じゃない。 あきらめましたか。 あきらめちゃあいない、質が悪いぞ、その話は別の日に、改めて。 この長屋の評判を知っているか。 貧乏長屋、洞穴、物干しと更地。 貧乏の一つ上、無学長屋、平たく言えば、馬鹿だということだ。 頭が悪い、学がない。 雄しべ、雌しべ? よく知ってるな。 そんなことは言われたくない。 でも、貧乏で頭のいいのは、たちが悪い。

 学問だ。 まず、歴史。 溺れ死ぬのは、よくない。 それは溺死、何年に何があったか。 元和三年、庄司甚右衛門が吉原をこさえた。 去年、源公が初めて女郎買いに行った。 歴史は、無理か。 算術。 忍術の一つ上か。 勘定だ。 泣いたり、笑ったりする。 足したり、引いたりするんだ。 得意だよ。 問題を出そう、八っつあん、10引く3は、いくつ? 差っ引かないでくれ。 じゃあ、10足す3は、いくつ? ただ、足すだけだ。 わけがある、何か、たくらんでるな。 いくつになる? すみません、断ります。

 例えでいこう。 ここに5円あるとする。 誰のもので? 拾ってもいい? みんなのものだ。 一人頭、いくらになる。 何人で? 9人で。 …………、大家を入れて10人なら、一人頭50銭になる。 大家、幾らか隠してるな。

 例えの話だ。 みんなで洋食屋へ行く。 金、ないのに、洋食屋なんかで使えっていうの? 居酒屋でもいい。 行きたくない。 円陣を組むな。 今月の店賃を差っ引くから、洋食屋へ行こう。 カツを頼むか、20銭。 高い、他の物を頼む、安いの。 5銭の飲み物と5銭のカツ。 本物? おまんまが5銭、割りが合わない。 カツとおまんまで、いくらになる? 金、払うんですか、大家さん、払って下さい。 無銭飲食になる。 払う金を、もらってない。

 お前たちが店の者で、私が客になろう。 円陣を組むな。 居酒屋で、刺身と銚子とコウコを頼む。 おかみ、勘定を。 刺身20銭、お銚子10銭が2本、おコウコ10銭、いくらだ? 1円ですね。 50銭だろ。 1円です。 何で上がる? 手間賃が入って2円。 吉さん! はい、どうも。 いくらかな? ちょっと待って、お勘定は、後ほど。 帰っちゃうぞ、いいのか、払わなくて。 いいです、お勘定の方は、月末の店賃の方から差っ引いておきますから。

三遊亭兼好の「生きている小平次」2022/11/03 06:52

 兼好の出の前に、場内の照明が暗くなった。 こんなことは、彦六の正蔵の頃も、一度もなかったように思う。 メモを取っている私は、手元がまったく見えなくなってしまった。 5月の半ば過ぎ、奥州安積(あさか)沼に小舟を出して、幼なじみの二人の男、鼓打ちの安達左九郎と役者の小幡(こはだ)小平次が釣りをしている。 陰気な所、左九郎が大物を釣り逃がして、沼の主だと。 小平次が「お近さんを、俺に渡してくれねえか」と。 左九郎は、女房のお近が、小平次と密かに付き合っているのを、役者買いだと思っていたと言う。 本気なんだ、死んでも添い遂げる、と小平次。

左九郎は、舟の敷板を剝がして、小平次の頭を殴り続ける。 頭が割れて、胸に血が流れる。 俺という亭主がありながら、と小平次を蹴る。 沼の中にドボーーン。 左九郎が舟を漕ぐと、船べりに手をかけて小平次が上がろうとする。 左九郎が、舟板でその船べりの手を打つ。 指がちぎれる。 小平次が沼に沈んで、沼に咲いていた白い花が、赤くなった。 左九郎は小舟を岸へ。

 誰だい、今行くよ。 お近は二階で化粧をしていた。 色白で背が高い。 下へ降りて、誰? その男が、ほっかぶりをとると、小平次だった。 今戻って来た。 いいから、入っとくれ。 着物がぐっしょり濡れている。 左九郎は? 帰って来ないよ、安積沼で殺しちまった。 一緒になってくれ、一緒に逃げてくれ。 着物着てくるよ、とお近は二階へ。

 祭時分で、外はにぎやかだ。 お近は仕度をして、下に降りる。 お近、今帰った、と左九郎。 お前さん、生きてたんか。 小平次がお前を沼に沈めたって、さっき、そこにいたんだ、上がり框が濡れているだろう。

そこへ、小平次が現れ、「お近さんを、俺に渡してくれ。俺に渡してくれ」。 化け物だ、殺しちまいな、とお近。 左九郎は道中差しを抜き、小平次の喉を刺す。 小平次は跳ねて、土間にドスーーンと倒れた。

さあ、逃げるよ。 谷中の家へ行こう。 落ち着くんだ、とお近が蚊帳を吊る。 左九郎は泣いている。 お前は悪くない、とお近。

それから二か月後、木更津の浜辺、左九郎とお近の二人が切り株に腰かけている。 二人は追われる身だ。 いつまで逃げんの。 小平次は生きている、間違いない、何遍も見た。 お前と添い遂げるまではと、追ってくる。 江戸へ戻ろう。 あいつが現れたら、また殺しゃあいい。

旅姿の男が一人、切り株に座って、一服する。 そして、二人の後を追う。 切り株が、ぐっしょり濡れている。 あたりには、風の音。 波の音。

柳家小満んの「鹿の子餅」より「江戸小咄」2022/11/04 07:01

 危なくマスクをしたまま、出てきそうになりました、と小満ん。 「鹿の子餅」より「江戸小咄」、三つぐらいなのに、20分やってくれと言われたので、ゆっくりしゃべろうと思っています。 「鹿の子餅釈迦の頭の後ろ向き」、銀座4丁目に専門の店がありますが、二ツ目の頃、鹿の子餅をよく御使い物に使いました、「はな鹿(しか)の子」てんで。

 宝暦の半ば、二丁町の操り人形座の仕事で人形職人が多く住んでいたんで人形町(まち)、人形町(ちょう)、道化役者の嵐音八というのが人形町に「鹿の子餅」の店を出し、四尺くらいの小僧人形、不二家のペコちゃんみたいなもの、が鹿の子餅の包みやお茶を出す仕掛けで大評判になった。 嵐音八は明和6(1769)年に亡くなり、三年経った安永元(1772)年『鹿の子餅』という小咄本が刊行され、江戸小咄流行のきっかけとなった。 著者は「山風」とあり、嵐音八に託されている。 嵐を上と下に分けて「山風」なのだ。 作者は、実は木室卯雲(きむろ・ぼううん)で、木室朝濤(ともなみ)というお侍、幕府御家人、口絵に肖像画があるが、幕府を憚って「山風」の偽名を使った。 本の体裁は、半紙四つ折(普通は二つ折)の小本で、63話入っている。 上方には軽口本があったが、江戸前で簡潔、小気味よいので、千冊以上売れた。

 その『鹿の子餅』の中から、いくつか、皆さんにおしゃべりしましょう。 文章がいい。 適当に誤魔化し……、わかりやすく、親切に。 お腹の中で、クスッと笑ってくれれば、結構です。

 「浪人」 雨の降る日の真の浪人。 門口におこもが来て、「お余り物はございませんか」。 「余らん!」と断った。

 「初夢」 正月二日の晩。 お宝屋が売りに来た。 宝船の紙を枕の下に入れて寝ると、いい夢を見た。 町内の人をご馳走するから呼んできてくれ、訳は、後で話します。 食べて、飲んで下さい。 どういう吉事で? いい夢を見た、お告げなんだよ。 一富士、二鷹、南無三……、間違えた。 「なすび」だ、南無三、しまった、間違えた。

 「恋病み」 恋の女子(おなご)は癪のタネ。 ぶらぶら病い。 おんば(乳母)さんは分る。 どなた? お向うの茂さま、お隣の文朝さんですか。 誰でもいいの。 手引き、薄情な娘は乳母にしてもらい。 御破算で願いましては、次の恋。

 「乞食」 三日も食べてない。 可哀想ね。 一昨日の残り物でも結構です。 明後日、いらっしゃい。

 「町道場」 先生、昨日は他流試合だったそうで。 手酷いことになった。 どんな塩梅で? 真一文字に打ち込んで来たので、さそくの早技で、額で受けた。

 「このわた」 武家の料理方、シーズンの「このわた」を出すのに、「ご風味を」と味見を頼む。 少ししか量がないので。 いや、まだノドを通してないから、楊枝で戻す。 品のいい食べ方、楊枝でひっかけるのがマナー、往復を指南した。 師匠の小さんは、「このわた」さえあればという人だった。

 「明和八年の出水」 出水があった。 深川、神田川が決壊。 木場から薪の束が流れ出した。 乞食が薪屋になって、薪屋が乞食になった。

 「家見舞」 浪人者が、裏店に引っ越したので、家見舞に行く。 一つへっついがあるだけで、お茶も出ない。 いざ戦となれば、何も持たぬ。 大きな石は、何? 寒い時に持ち上げるんだ。

入船亭扇遊の「木乃伊取り」前半2022/11/05 07:07

 扇遊も髪がだいぶ白くなった。 世の中変わって、若い人は言葉が分からない。 「男の遊び場所」が、通じなくなった。 北陸で、近所の遊園地に案内されて、仕方なく観覧車に乗った。

 町内の若い者が集まっている。 いたな、色男。 ありがとう、当たったよ。 女にもてるツラじゃない。 ここ、見てくれ。 手の出がいいけど。 このアザ見てくれ、4日ほど前、女がつねったんだ。 消えそうになると、色上げしてる。

 若旦那が、遊びを覚えて、何日も帰って来ない。 番頭さん、どうしたものか。 吉原の角海老においでになるようで、なまじの者でなく、私がお迎えに参ります。 番頭さんは、人間が堅いから。 方角もわからないけれど、人に聞いて行き、間違いなく、お連れします、と出かけて、五日帰って来ない。

 倅は勘当します。 (母親が)番頭の佐兵衛がいけない、頭(かしら)に来てもらいましょう。 あの男なら、と呼びにやるが、なかなか来ない。 遅くなりました、どうろくじん(道陸神)が寝込んでる、河童家郎と山の神が湯に行ってまして…。 蔵のことでしょ。 お長屋の鼠? キリンで巻き上げて、やれば簡単で。 ウチで困ったことが持ち上がったんだ、倅が…。 死んだんですか? 掛け先から帰って来ないんだ、吉原の角海老にいるらしい。 ああいう所の振り合いも、派手な付き合いも、わかっている。 無理ありませんよ、若旦那は、旦那と違ってカネ遣いがいい。 爺の代から三代、お世話になって、腐った半纏の一枚も頂いて……、半纏も腐るほど頂いていますから、四の五の言ったら、腕を叩き折ってでも連れて帰ります、と出かけた。

 刺し子拵えで、土手にかかる。 一八が出てきて、お供致します、これからお楽しみで。 野暮用だ。 レキが待っているんでしょ。 頭は、角海老に駆けつける。 そこへ一八もやってきて、一杯やって、ワーーーッとなって、七日間帰って来ない。 木乃伊取りが、木乃伊になった。

 倅は勘当だ。 ウチの跡取りですよ。 お前が悪い、甘やかすから、使うことばかり覚えた。 俺なんか、道楽はこれっぽっちもしたことがない。 あなたは表には堅いけれど、ウチに置く女中はみんな手を付けた。

 何だ、清造か、どうした? 見るに見かねて、参りました。 オラが迎えに行こうと思いますが。 無駄だ、無駄だ。 やってみなければ、わからない。 当たって砕けろ、ということがある。 お前は、台所でおまんまを炊いていればいいんだ。 オラは、まんま炊きには違いない、仮に泥棒が入って、お前さんをおっ殺さんとした時も、飯が焦げねえように見ていればいいかね。 瘤のある手織り木綿を着て、熊の皮の煙草入れを下げた清造。 清造、あたしの巾着だ、お勘定が足りなかったら、これで払って連れて来ておくれと、母親が渡す。 ありがてえことだ、お袋様の情けだ。 首に縄をつけてでも、若旦那をしょっぴいて参ります。

 はたして清造は、若旦那を連れ帰ることが出来るのだろうか、それはまた明日。