桃月庵白酒の「長屋の算術」 ― 2022/11/02 07:10
収録だからメークをする、と始めた。 血色はいい、この体形だからほてる、赤みをおさえる。 冬場、暖房とライトで暑い、汗をかき、冬の噺がしづらい。 まだ、そろそろ長袖かなという感じだが、まわりを見て、薄手のダウンを無理矢理着ている。 本当は着たくない。 暖房で汗をかくので、風邪を引きやすい。
楽屋に女性の前座が増えてきた。 以前は、その下着何日着てんのというのもいたが、服装が変わってきて、お出かけみたいなのを着るようになった。 お囃子さんも前は、もうそろそろ、もういってる、だったのが、若い方が増えてきた。 見られている、いいの着なきゃあ、という見栄が出て来る。 住みたい町ランキングというのがあって、たとえば神楽坂。 江戸川橋の前でも、神楽坂と言い張る。 だが、それほどよくはない。
みんな、集まったか。 はい、大家さん、でも、ない袖は振れない。 店賃の話じゃない。 あきらめましたか。 あきらめちゃあいない、質が悪いぞ、その話は別の日に、改めて。 この長屋の評判を知っているか。 貧乏長屋、洞穴、物干しと更地。 貧乏の一つ上、無学長屋、平たく言えば、馬鹿だということだ。 頭が悪い、学がない。 雄しべ、雌しべ? よく知ってるな。 そんなことは言われたくない。 でも、貧乏で頭のいいのは、たちが悪い。
学問だ。 まず、歴史。 溺れ死ぬのは、よくない。 それは溺死、何年に何があったか。 元和三年、庄司甚右衛門が吉原をこさえた。 去年、源公が初めて女郎買いに行った。 歴史は、無理か。 算術。 忍術の一つ上か。 勘定だ。 泣いたり、笑ったりする。 足したり、引いたりするんだ。 得意だよ。 問題を出そう、八っつあん、10引く3は、いくつ? 差っ引かないでくれ。 じゃあ、10足す3は、いくつ? ただ、足すだけだ。 わけがある、何か、たくらんでるな。 いくつになる? すみません、断ります。
例えでいこう。 ここに5円あるとする。 誰のもので? 拾ってもいい? みんなのものだ。 一人頭、いくらになる。 何人で? 9人で。 …………、大家を入れて10人なら、一人頭50銭になる。 大家、幾らか隠してるな。
例えの話だ。 みんなで洋食屋へ行く。 金、ないのに、洋食屋なんかで使えっていうの? 居酒屋でもいい。 行きたくない。 円陣を組むな。 今月の店賃を差っ引くから、洋食屋へ行こう。 カツを頼むか、20銭。 高い、他の物を頼む、安いの。 5銭の飲み物と5銭のカツ。 本物? おまんまが5銭、割りが合わない。 カツとおまんまで、いくらになる? 金、払うんですか、大家さん、払って下さい。 無銭飲食になる。 払う金を、もらってない。
お前たちが店の者で、私が客になろう。 円陣を組むな。 居酒屋で、刺身と銚子とコウコを頼む。 おかみ、勘定を。 刺身20銭、お銚子10銭が2本、おコウコ10銭、いくらだ? 1円ですね。 50銭だろ。 1円です。 何で上がる? 手間賃が入って2円。 吉さん! はい、どうも。 いくらかな? ちょっと待って、お勘定は、後ほど。 帰っちゃうぞ、いいのか、払わなくて。 いいです、お勘定の方は、月末の店賃の方から差っ引いておきますから。
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