入船亭扇遊の「木乃伊取り」前半 ― 2022/11/05 07:07
扇遊も髪がだいぶ白くなった。 世の中変わって、若い人は言葉が分からない。 「男の遊び場所」が、通じなくなった。 北陸で、近所の遊園地に案内されて、仕方なく観覧車に乗った。
町内の若い者が集まっている。 いたな、色男。 ありがとう、当たったよ。 女にもてるツラじゃない。 ここ、見てくれ。 手の出がいいけど。 このアザ見てくれ、4日ほど前、女がつねったんだ。 消えそうになると、色上げしてる。
若旦那が、遊びを覚えて、何日も帰って来ない。 番頭さん、どうしたものか。 吉原の角海老においでになるようで、なまじの者でなく、私がお迎えに参ります。 番頭さんは、人間が堅いから。 方角もわからないけれど、人に聞いて行き、間違いなく、お連れします、と出かけて、五日帰って来ない。
倅は勘当します。 (母親が)番頭の佐兵衛がいけない、頭(かしら)に来てもらいましょう。 あの男なら、と呼びにやるが、なかなか来ない。 遅くなりました、どうろくじん(道陸神)が寝込んでる、河童家郎と山の神が湯に行ってまして…。 蔵のことでしょ。 お長屋の鼠? キリンで巻き上げて、やれば簡単で。 ウチで困ったことが持ち上がったんだ、倅が…。 死んだんですか? 掛け先から帰って来ないんだ、吉原の角海老にいるらしい。 ああいう所の振り合いも、派手な付き合いも、わかっている。 無理ありませんよ、若旦那は、旦那と違ってカネ遣いがいい。 爺の代から三代、お世話になって、腐った半纏の一枚も頂いて……、半纏も腐るほど頂いていますから、四の五の言ったら、腕を叩き折ってでも連れて帰ります、と出かけた。
刺し子拵えで、土手にかかる。 一八が出てきて、お供致します、これからお楽しみで。 野暮用だ。 レキが待っているんでしょ。 頭は、角海老に駆けつける。 そこへ一八もやってきて、一杯やって、ワーーーッとなって、七日間帰って来ない。 木乃伊取りが、木乃伊になった。
倅は勘当だ。 ウチの跡取りですよ。 お前が悪い、甘やかすから、使うことばかり覚えた。 俺なんか、道楽はこれっぽっちもしたことがない。 あなたは表には堅いけれど、ウチに置く女中はみんな手を付けた。
何だ、清造か、どうした? 見るに見かねて、参りました。 オラが迎えに行こうと思いますが。 無駄だ、無駄だ。 やってみなければ、わからない。 当たって砕けろ、ということがある。 お前は、台所でおまんまを炊いていればいいんだ。 オラは、まんま炊きには違いない、仮に泥棒が入って、お前さんをおっ殺さんとした時も、飯が焦げねえように見ていればいいかね。 瘤のある手織り木綿を着て、熊の皮の煙草入れを下げた清造。 清造、あたしの巾着だ、お勘定が足りなかったら、これで払って連れて来ておくれと、母親が渡す。 ありがてえことだ、お袋様の情けだ。 首に縄をつけてでも、若旦那をしょっぴいて参ります。
はたして清造は、若旦那を連れ帰ることが出来るのだろうか、それはまた明日。
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