喬之助の「三人無筆」2011/11/02 04:22

 喬之助、例によって走るように出て来て、忙しく話を始める。 楽屋で前座 が書く「ネタ帳」、誤字脱字の見本だという。 「王子の狐」が「玉子の狐」、 点を付け過ぎた、「からぬけ (穴子でからぬけ) 」が「からねけ」、「小言念仏」 を「小言幸兵衛、念仏を唱える」、「与太郎小噺」を「雨の降る穴」。

 伊勢屋に弔いに行った甚兵衛、「おっかあ、一緒に夜逃げしてくれ」と、帰っ てくる。 「どうもこのたびは」と言ったら、奥に饅頭の積んであるのが見え たので、つい「ごちそう様です」と言ってしまった。 しくしく泣いていたお ばあさんが「プッ」と吹き出して、座布団二枚。 饅頭を二つ取って、口に放 り込んだ所へ、「甚兵衛さん、明日の弔い(葬儀)の帳付けをお願いします」と言 われた。 饅頭でモグモグしゃべれないでいると、「引き受けて頂いて有難う」 と言われてしまった。 「俺は無筆だ、夜汽車に乗って、京都行こう」

 女房、「体で帳付けをしろ」と知恵をつける。 大店のことだから帳付けを頼 んだのは一人ではないだろう、朝早くお寺に行って、みんな支度をしておいて、 体を使う仕事はみんなやりました、帳付けはお願いしますと、相方に言えばい い、と。

 朝早く、寺へ行くと、白々明けに一人来ているという。 伊勢屋の遠縁の杢 兵衛さん、お茶にお煎餅を出し、煎餅は堅焼き、狭山の新茶は私が持ってきた、 ぐっとやって下さい、お話がある。 私、実は無筆で、帳付けはお願いします、 と。 無筆と無筆で、十二筆。 しかたがないから、仏の遺言で、「帳面はめい めい付け、向こう付け」ということにする。 折よく手習いの先生が来て、記 帳したところに、「大工の政五郎」と書いてくれ、と。 「代筆も構わない」、 遺言その二にある。 その後、相模屋、柳屋、桂、三遊亭、川柳……と書いて もらう。 「こちらに回って書いてもいい」が、遺言その三。

 終わったところへ、熊さん、品川に遊びに行ってたら、女が離さねえ、「熊五 郎」と頼む、と。 「めいめい付け」、息が切れていても、手が震えていても、 だめ。 無筆なんだ。 実は私達も無筆。 何、帳付けが無筆だ。 さっきお 出でよ、ここは山谷だよ、なぜ吉原で遊ばないんだ。 伊勢屋さんには世話に なったんだ、なんとかしてくれよ。 大丈夫、お前さんが来なくていいっての も、仏の遺言にしときますから。

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