山崎正和さん、社交による人間関係2020/09/25 07:00

 福沢諭吉は、societyを人間交際(じんかんこうさい)と訳した。 ならソーシャル・ディスタンスは、人間距離(じんかんきょり)だな、と思う。 福沢は、学問(実学=実証科学(サイヤンス))で身につけた個人の独立を、活発なコミュニケーションによる「人間交際」(社交)を通じて、国の独立に結びつけることを説いた。 言いかえれば、自分たちで考えて動かす本当の「市民社会」をつくれるかどうかが、日本の行く末を握る鍵になるということだろう。

 劇作家で、文明批評をよくした山崎正和さんが、8月19日に悪性中皮腫で86歳で亡くなった。 文章を読んで、なにか気になる人だった。 訃報や評伝を読む。 代表作『柔らかい個人主義の誕生』(1984年)の中で、知識集約型産業が中心となる「脱産業化社会」では、人々はモノではなく、時間を消費し、他人に自らを表現する社交を楽しむようになると予言。 吉野作造賞を受賞した。 また、グローバル化の進展で国家などの組織が衰退する中で、個人に心の居場所を与えるものして社交による人間関係を重視した『社交する人間』(2003年)などで社会と人間のあり方を読み解いた。

 山崎流の社交の姿は、創設から30年以上関わり続けた「サントリー学芸賞」に表れていた。 学際的な志向を持つ若手学者の著書を思想傾向にこだわらず顕彰した。 受賞者の多くは今の主要な文化人になっている。 それは日本にありがちな学閥ではなく、知的で適度な距離を保っていた。

 1995年の阪神・淡路大震災では西宮市の自宅で被災したが、「おにぎりも大事だが、だからと言って文化を忘れてはならない」と主張、自粛の雰囲気が広がる中、上演予定だった翻訳劇の資金集めに奔走した。

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