映画『母(かあ)べえ』のユーモア2023/09/22 07:07

 山田洋次監督の『こんにちは、母さん』と共に、「母」三部作といわれる 『母べえ』(2008(平成20)年)、『母と暮せば』(2015(平成27)年)も、『母べえ』はテレビで、『母と暮せば』は映画館で見ていた。 それぞれ、いろいろ書いていたので、順次再録することにする。

        映画『母べえ』のユーモア<小人閑居日記 2010. 2.6.>

 10月30日の日記に書いた山田洋次監督の『おとうと』の公開に合わせ、31日にテレビ朝日が「地上波初」放送していた『母べえ』(2007年・松竹ほか)を見た。 吉永小百合、坂東三津五郎、浅野忠信、檀れい、笑福亭鶴瓶。 黒澤映画の記録係として知られる野上照代さんのドキュメント作品を映画化したもの。 太平洋戦争へと進んでいく暗い時代に、治安維持法違反で投獄された夫“父べえ”野上滋(坂東三津五郎)を信じ続け、“初べえ”“照べえ”(これが照代さん)の姉妹を守って、懸命に生きた女性の姿を描く。 その苦境に、夫の教え子“山ちゃん”(浅野忠信・好演)が現われ、“父べえ”の妹(檀れい)と共に、一家を支える。 ドイツ文学者・野上滋は、実際は野上巌(筆名・新島繁)といい、映画と違って獄死はせずに戦後も左翼運動をした人だそうだ。

 暗く、悲しい、絶望的な時代を描いた物語なのだが、それを救っているのが山田洋次監督のユーモアだ。 ○真面目だが、ぶきっちょで、カナヅチの“山ちゃん”が、先生の検束連行を聞いて、駆けつけて来る。 正座して、丁寧な口上を述べていて、足がしびれ、ひっくりかえると、靴下には大穴が開いている。 ○獄中の先生に代わり、姉妹を海水浴に連れて行った“山ちゃん”だが、溺れてしまい、浜辺で見ていた“母べえ”が洋服のまま飛び込んで、颯爽としたクロールで助けに行く。 ○隣組の寄り合い。 最初に「宮城遥拝」、天皇陛下は葉山にお出かけ中というので、葉山はどの方角かとか、「宮城遥拝」というのだから宮城だろうとか、あっちを向いたり、こっちを向いたり。

 NHK『知る楽』「こだわり人物伝」1月、立川志らく「小津安二郎は落語だ!」で、山田洋次監督は小津安二郎監督のユーモアを語っていた。 山田作品には、小津安二郎を元祖とする松竹(大船調)ホームドラマの伝統が、受け継がれている。 それは小津が、サイレント時代のハリウッドのドタバタコメディに憧れて、撮り始め、チャップリンの作品を見て、とてもかなわぬとホームドラマに転進したからだと、立川志らくは指摘していた。