瀧川鯉昇の「馬のす」2024/08/10 07:00

 落語界には定年がなく、70を一つ超えても若手、現役。 客席の妙齢のご婦人と目が合って、呑み込んだ生唾が、誤嚥のもとに。 コンピューターが現れた頃から、つまずいた。 聞くと、もとになる考え方が違うという。 二進法。 もともとニシンは、北海道。 沖縄が、サンシン。 心臓が、キュウシン。 健診の検査、最近は、頭のてっぺんから足の先まで、午前中に数時間で終わる。 9時から始まって、昼前に終わり、昼飯が出る。 お銚子はナシ。 検査結果もあらかた出ている。 前の晩、夢を見て、頭の中に病院の裏庭が映ったという話をすると、仕事以外に息抜き、趣味が必要だと言われた。 仕事でも息抜きしているといったが…。 楽しみ事に至るまでの過程で、刺激を受けるのだそうだ。 そういえば、子供の遠足も、前の晩、眠れない。 町内の地図、日本地図を出し、地球儀から天体望遠鏡まで出す。 上野からスカイツリーに、出掛けた。

 今日の楽しみ、前の晩が最高潮。 おっかあ、夜が明けたら、すぐ出かける。 握り飯を六つ、おかずは要らない。 釣りに行くので、道具を点検。 テグス(天蚕糸)が持つかな、釣る前に切れるな。 何か代わりになるものはないかな。 木綿糸ぐらいか。 エッ! 馬をつないでおきますんで、よろしく。 馬は、おとなしそうにしているだけだ。 これ、釣り糸にならないかな。(と、何か抜く) これ、いいね。 余計に、抜いて、と。

 兄貴が来た。 釣りに行こうと思ったら、テグスがいかれちゃっていた。 馬の尻尾が、いい引きなんだ。 馬に、断ってやったのか、だまってやったのか? あれを知らねえのか、アア、背中がゾクゾクして来た。 何か、あるの? なまじ知らない方が、幸せということがある。

 実を言うと、半刻ぐらい、ガブガブ飲んでいたんだ。 元がかかっている。 冷やでいいから、持ってきてくれるか。 こんないい酒をやっているのか。 もう、一杯。 湯に行った帰りでよ、かかあ、またどっかで引っ掛かってるというだろう。 物を知らない奴がいると、助かる。 何か、つまむものはないか。 枝豆。 いいな、塩を振って。 さやの中に、二つと、三つ入っているのがある。 落ち着くな。 尻尾の話、先にしてくれないか、寿命が縮む。 笑うと身体にいい、寄席に行っても、ちっとも笑わない奴がいる。 そんなことは、どうでもいい。 誰かが笑ったら、付き合って笑う、笑いどころがある。 小皿をちょうだい、食い終ったやつを置くから。

 電車で走っている奴がいた。 電車に乗っていたら、若い人が一人立っている。 股倉が開いている、閉め忘れだ。 隣のおばさんが笑うかと思ったが、教えてやった。 前が開いてますよ、って。 実に素直な奴で、前の車両へ行っちゃった。 二つ先の駅で、降りる時に見たら、運転席の横にいた。 線路に下りて、轢かれるんじゃないか、と心配になった。 (と、言って、また一杯飲む)すっかり、ごちになった。 それで、どうなるんだ? 馬が、痛がるんだよ。