「福澤の言説―その具体的変遷」2009/06/12 07:10

 高田晴仁さんみずからが「資料集」のようだと言った、この講演「福澤諭吉 の法典論」の13ページに及ぶレジュメは、高田さんの研究の足跡を明らかに して、貴重である。 とくに「4. 福澤の言説―その具体的変遷」は、その大 部分を占め、福沢の文章を引用しつつ、読み解いていく。  その流れは、1)初期(慶應4年~明治8年)→「慣習法」主義の原理。 2)井上外交期(明治12年~20年)→外交・法典編纂への批判。 3)大隈外 交期(明治22年2月~10月)→延期論の展開。 4)初期議会~陸奥条約・ 日清戦争期(明治23年~27年)→延期派勝利、そして転回への兆し。 5)日 清戦後(明治30年~32年)→転回、となる。

 4)「延期派勝利、そして転回への兆し」の期間に、「実業論」(明治26年3 月30日~4月15日)が書かれた。 高田さんは、法律論としても大事だとし て、『福澤全集』第6巻150頁から引用している。 その一部、「近来世論に喧 しき民法商法の如き、其法文にも多少不行届の点はある可きなれども、之を断 行して人事に益す可きは固より論を俟たず。然るに其断行尚早しと論ずれば、 之を争ふを得ずして断行論者も之に服するは何ぞや。文明の議論上に於ては断 行の理由明白なりと雖も、実際に民智の尚ほ幼稚なるを見れば折角の金科玉条 も却て害を為す可しとの情実に服して、延期論に抵抗するを得ざるが故なり。」

 ここだけ読むと、福沢は断行派と見える、鳥居先生もミス・リーディングし た、と高田さんが言ったので、私はアハハと笑った。