歌丸の「藁人形」2009/06/02 07:09

 この日は、「四宿(ししゅく)」の説明が二回出た。 「藁人形」の千住と、 「品川心中」の品川。 ほかに板橋と新宿で「四宿」、吉原が天下御免、つまり 公認の遊廓なのに対し、「四宿」は岡場所と呼ばれ、宿場で飯盛女の名目で遊女 営業をすることが黙認されていた。 一番の売れっ妓を、吉原では「お職」と 言ったが、四宿では「板頭(いたがしら)」、こういうのは学校では教えない、 寄席の教養だ。

 千住は小塚原の刑場があったことから「コツ」と呼ばれた。 コツの若松屋 の板頭で、おくまという海千山千、里に千年、三千年の甲羅を経た女郎がいた。 千住の河原に西念という坊さんがいて、毎日浅草の観音様まで観音経を読んで 喜捨を受けながら往復する。 お父っつあんの命日だから供養にと、西念を呼 び込んで経を読んでもらったおくまは、飯と酒を振舞い、西念が六十六と聞く と、死んだ父親と同じ歳だ、贔屓にしてくれている旦那に、来月身請けをし、 駒形に絵草子屋の店でもやったらどうだと、言われている。 堅気になったら、 父親そっくりの西念を引き取って、面倒をみたい、などと言って、もう一本つ け、お鳥目までくれる。

 二三日後、おくまはどこか金を貸してくれるところはないかと尋ね、絵草子 屋の手付けが必要なのだが、旦那が田舎から帰るのが来月になる、と言う。 西 念は永年かかって貯めこんだ三十両を、縁の下から掘り出して、利子はいらな いと貸す 。  あくる日から四日間どしゃぶりの雨、衣を質に食いつないだ西念、六日目に おくまの所に少し融通してもらいに行くと、けんもほろろ、金を借りた覚えは ない、あれは朋輩と騙せるかの賭けをして、巻き上げた金、もらった金だと、 いう。  長屋の雨戸を閉めて、一歩も外に出ず、患っているのか、うなっている西念、 まわりで心配している所に、甥の甚吉が訪ねてくる。 見てはいけないという 鍋の中で、油で煮えていたのは藁人形。 三味線が入って、芝居がかりで一通 りの物語。 藁人形なら何で五寸釘じゃあないのか、と聞く甚吉に、西念「あ の女は、たしか糠屋の娘だ」

 客をしんみりとした物語世界に引き込んでおいて、最後に軽くうっちゃろう という、この噺の仕掛けは、歌丸の柄に向いているように思われた。