志ん輔の「品川心中」(上)2009/06/04 07:09

 品川は、いっときは吉原の向うを張るほど、盛んだった。 吉原と四宿、「お 職」と「板頭」のほかに、源氏名が吉原だと高尾、喜瀬川、柏木なんていうの に、宿場だと、お染、お久、お福、のような普通の名前だった(志ん輔はここ でチラと横を向き、お囃子さんの名前をいえば、間違いがないと)。

 かつては「板頭」だったお染、年齢(とし)には敵わない、くしゃみをする と洟も一緒に出るようになって、売れなくなる。 この社会には「紋日」とい うのがあって、「移り替え」といって単衣もんから袷に移り替えるのに、ご馳走 をしたり、祝儀を出したり、シャンシャンシャンとお披露目をするから、金が かかる。 下の者に抜かれて、馬鹿にされ、どうにもならず、玉(ぎょく)帳 をめくって、心中の相手を探す。 いたいた、どうでもいいのが…、中橋から 来る、貸本屋(ほんや)の金蔵。 「相談したいことがある」と手紙を書くと、 やって来る。 四十両要ると話すと、「一緒に死んでやるよ、金がないもん」と なる。

 翌日、土地の親分に暇乞いをして、再びやって来た金蔵、あの世に勘定は取 りに来ないと、派手に飲み食いして、鼻提灯の高いびき。 大引け過ぎに起こ すと、用意した短刀を親分の所に忘れ、お染の用意した剃刀では血が出るから イヤだ、きれいに死のうと裏の海へ。 桟橋で、「押すなよ」と、スローモーシ ョンで泳ぐように、「桟橋は長いよ」「命は短いよ」。 金蔵が飛び込んだところへ、 「金なら出来たよ」と若い衆、お染を止める。 「誰? バカ金、いいよ、あ んなの」「金さん、いきなり飛び込んじゃうんだもの。私、もうちょっとやりた いことがある。ごめんなさいね。じゃあ失礼」

 死んだと思った金蔵、実は品川は遠浅で、水は膝まで、鼻からダボハゼが出 た。 雁木を伝って、八つ山へ。 犬の町内送りになって、親分の家へ。 表 の戸を閉め、車座になって、何かやっていた。 戸をどんどん叩き、犬の吠え 声もする。 手入れだ、と明かりを消して、芝居のだんまりのようになってか らのドタバタが、「品川心中」(上)の聴かせ所。 志ん輔のそれ、十分楽しむ ことができた。