福沢の「実学の精神」とは2009/06/22 07:28

 昨年150年を迎えた慶應義塾は、幕末の1858年に福沢諭吉によって創立さ れ、その時から明治維新をはさむ激動の時代を、福沢は「恰(あたか)も一身 にして二生を経(ふ)るが如く、一人(いちにん)にして両身あるが如し」(『文 明論之概略』)と言った。 今日のわれわれもまた、大きな変化の渦のなかにい る。

 常識や既存の概念が通用しなくなって、一番、自分の頭で考えていたのは、 福沢だった。 福沢の言う「実学」は、自然科学のみならず、社会・人文科学 を含めた実証科学のことだった。 福沢は明治16年の「慶應義塾紀事」の中 で、「実学」に「サイヤンス」とルビをふっている。 『文明論之概略』などは、 徹底的な実証精神の表れた、「実学」の事例のオンパレードだ。 「スタチスチ ク」という言葉を使い、例えば結婚と穀物の値段に負の相関関係があるという 実証分析に言及している。 ノーベル経済学賞を取ったゲーリー・ベッカーの、 家族(結婚)の経済学と同じことを、100年前の福沢が言っていたことになる。

 自分の頭で考えるということには、四つの要素がある。 問題発見、(オリジ ナルな)仮説構築、仮説検証(誰もが納得するように、科学の作法で)、結論説 明(解決策を示す)。 これは学生の卒論のプロセスにも、社会に出てからの仕 事や生活にも、通じることだ。 たとい学部の学生の論文でも、世の中に新し い叡智を加える論文でなければならない。