大海原を漂う一艘の小舟 ― 2009/06/19 06:52
それで「没後10年 ベルナール・ビュフェ展」であるが、最初に自画像ばか りを沢山並べたり、黒いレースのドレスを着た結婚3か月目の「アナベル夫人」 (1959年)の両側に昆虫の絵を配したりする、ビュッフェ自身が考えた展示に なっている。 早い話が年代順ではない。 それで年代順になっている『ビュ フェ美術館鑑賞ガイド』を見てみると、はっきりしてくるのだが、私が好きな のは、1947年から1958年までの絵なのであった。 1947年、19歳のビュッ フェの絵は、注目されるようになった。 1958年の12月、30歳のビュッフェ は、アナベルと結婚している。
グレーや茶を主体にして、色を多用しない画面に、細い人物、ストーブや机 や椅子(5月20日の日記に書いた、前田富士男さんが話していたトーネット社 の曲げ木椅子のようだ)、皿や瓶や果物が、角ばった線で描かれている。 何と もいえない孤独で、寂しく暗い、不安な感じが、胸に迫ってくる。 それが若 い私をとらえ、現在にまで及んでいる。 私もまた、内気で、どちらかといえ ば、孤独な少年であった。
1979年にビュッフェの写真を撮った南川三治郎さんは、「ビュフェはか細い 声でセンシティブに話す。よく耳を澄ましていないと聞きとれないくらいだ。 また顔は笑ってはいるが、心の中は決してそうだとは受け取れない、シャイな 人なのだとの感を強くした」と書き、こんなビュッフェの言葉を書き留めてい る。(『アトリエの巨匠に会いに行く』朝日新書) 「私は大海原を漂う一艘の小舟のようなもの。波は繰り返し、繰り返し押し 寄せてくる。その波間を縫ってなんとか舵を取っているのです。波にもまれて、 もまれながら進んでいるのです」
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