志ん輔の「三枚起請」前半2015/06/04 06:31

 お客さんに、よく言われる。 噺家は口が上手いから、もてるんでしょうね、 と。 女のひとと二人になると、オドオドする。 そんなことは、たまーーに だから、オドオドする。 志ん朝と小せんが、愚痴を言っていた。 お客さん に、だまされた。 小せんが、浅草演芸ホールを出ると、めし一緒に食べよう か、って言われた。 牛(ぎゅう)なんかどうか。 いいですね。 吉野家だ った。 その話を聞いていた志ん朝が楽屋を出ると、お食事でも一緒にいかが、 と来た。 同じ人かと思って、何を食べたいんです? 牛なんか、どう。 牛 といっても、いろんな形がある。 銀座のステーキかなんか。 それで、割り 勘という怖い目に合った。 お客さんの方が、口が上手い。

 女を口説く。 腹の底を確かめたい。 心変わりが恐い。 気持を形に残そ うということになる。 お湯に行くと、二の腕に「○○命」と彫り物があるお っさんがいる。 聞けば、その人とはうまくいかなかった、と。 ジンクスが ある。 明治大正まで、廓には起請文というものがあった。 サッカーのエン ブレムになっている熊野権現の八咫烏の誓紙に書く。 約束を破ると、熊野権 現のカラスが三羽死ぬ。 高杉晋作が十八の時につくった都々逸、「三千世界の カラスを殺し、主と朝寝がしてみたい」。

 猪之さん、座っていきなよ。 棟梁、なーーに? お袋が泣いてたよ。 年 増を泣かせたか。 夜遊び、日遊びだって、いうじゃねえか。 昼は家にいる よ、夜は帰って来ない。 博打やめなよ。 近頃、女と色っぽいことになって んだ。 女か、シロかクロか。 ブチかな、吉原の女。 まっクロけのけ、じ ゃないか、その女、お前にトンと来てるのか。 トントンと来やがるんだ、ブ ルブルっとした時、上げてやると引っ掛かるんだ。 ハゼだね。 大事にしよ うって、昼間はブラブラしてる、「来年の三月、年期(ねん)が明けたら、お前 の所にきっと行きます」と、いうことになっているんだ。 「きっと行きます、 断わりに」じゃねえのか。 ちゃんと起請をもらってる。 見せろよ。

 書いたね、なになに「一つ起請文のこと」か、「私こと来年三月年期が明け候 えば、あなた様と夫婦になること実証也。吉原江戸町二丁目朝日楼うち、喜瀬 川こと中山みつ」。 これ本当に貰ったんか、拾ったんだろ。 この女、品川に いて、去年吉原(なか)に住み替えをした、歳は二十で、色の白い、目の下に ホクロが二つある。 もう一枚、やろうか、俺も、持ってるんだ。 ホッ、ホ ッ、俺は、この女が品川にいる頃から馴染で、俺がこの年まで独身(ひとり) でいるのは、この起請を持ってるからだ。 アッ、おしゃべりの清公が来た。

 何の話をしてるんだ。 猪之公が、だまされた。 こんな起請をもらってい た、俺もだが…。 「一つ起請文のこと。私こと来年三月年期が明け候えば、 あなた様と夫婦になること実証也。吉原江戸町二丁目朝日楼うち、喜瀬川こと 中山みつ」。 この女は、品川から去年吉原に住み替えた、二十で色の白い、目 の下にホクロが二つある女じゃないか。 もう一枚、出るぞ。

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