立川生志の「紺屋高尾」下2019/07/05 07:20

 先に床を出たのは、高尾。 男に寝顔を見せるのは女の恥という美徳があっ た。 現代のサラリーマン、寝ている内に出かけ、寝てから帰る、起きている 顔を見たことがない。 寝覚めに一服喫いなんし、今度、いつ来てくんなます?  「あい、あい」。 いつ来るんざます? 三年経ったら、来ます。 きつうこと を。 三年経たなきゃあ、金がない、花魁、すみません。 今回はお終い、こ れを励みに生きていけます、久さん元気でと言ってくれますか。 あなたに嘘 をついてはいられない、私は紺屋の職人で…。 ヌシがそうして詫びなんすな ら、ワチキもお詫びを、疾うに知っておりました、紺屋の職人さんと。 ぐっ すり寝ている、ヌシのその手を。 知ってて、あっしを、ハハハ、余計情けね えじゃないか、ハハハ、とんだ笑い者で、間抜けな奴だと思ったんでしょうね、 笑ってやって下さい。 どうしてワチキが、ヌシを笑うなんぞ、手を見て、涙 がこぼれんした、隠さなくていいざんすよ、青い手が何よりヌシがヌシである 証しざんす。 来年三月十五日、年が明けたら、ヌシの所に参ります。 ワチ キは本気ざます。 女房はんにしてくんなまし、ヌシの本気に惚れました。 女 房はんにしてくんなますか。 喜んで。 来年三月十五日、眉を落として、歯 を染めて、参ります。 二度と、この里に来ないようにと、三十両を渡してく れた。

 日本人、久蔵、高尾太夫に逢えました。 名代にと言って、親方によろしく、 と。 来年三月十五日、年が明けたら、高尾が来ます。 花魁、尾がいらずだ、 馬鹿な。 証拠に三十両預かってきた。 久蔵は、「来年三月十五日、高尾が来 る」、「来年三月十五日、高尾が来る」と言いながら、一生懸命働く。 周りの 者も、「おい、来年三月十五日」と。

 三月十五日、一丁の駕籠が、エイホッ、エイホッ、とやって来る。 丁稚ど ん、ご当家に久蔵さんという方がおいでで? 眉を落として、歯を染めて、高 尾が来た。 親方、来ました、来年三月十五日が!

 久さん、お元気! 三月十五日ざんす。 はい、有難うございます。 親方 はじめ、職人たちも、もらい泣きした。

 夫婦で一軒店を出す。 高尾太夫に、また来てくんなまし、と言われるので 大評判。 他に何か、染める物はないか。 フンドシでも染めるか。 俺はも う染めてもらった。 傾城にも、こんな誠があったという「紺屋高尾」の一席 で。

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