緑ちゃんがさらわれ、少年探偵団が追跡2020/09/17 07:08

 翌日、篠崎始が明智探偵事務所を訪ねると、明智小五郎は出張旅行中で、助手で少年探偵団団長の小林君が名案を出した。 小林が五つくらいの男の子を連れて、篠崎家を訪れ、男の子に変装した緑ちゃんを、品川のおばさんの家に避難させようというのだ。 その日の日暮れ、小林が、イートンスーツに着替えて、男の子になった緑ちゃんを連れ、呼びつけの自動車で、秘書の今井も乗り、品川へ向かった。 少し走ると、小林は、車が品川とは違う方へ走っているのに気づいた。 声をかけて、運転手と助手席の今井が、ヒョイと振り向くと、二人とも真っ黒い顔、白い歯を出し、ケラケラと笑った。 篠崎家の門前で自動車に乗る時は、運転手も、もちろん今井も白い日本人の顔だった。 小林が緑ちゃんを抱えて、逃げようとすると、運転手はピストルを向け、今井に化けていた方が、抵抗できない二人を縛り上げた。 緑ちゃんが縛られている間に、小林はさとられぬよう、右のポケットから何かキラキラ光る銀貨のようなものをひとつかみして、車の後ろのバンパーのつけねの隅に置いた。 再び走り出した車は、後で同じ世田谷区内とわかる、さびしい町の洋館の前で停まり、二人はその中に連れ込まれる。 小林はまた、握っていた銀色のものを門からポーチまで五つ落とした。 二人のインド人によって、小林と緑ちゃんは真っ暗な地下室に入れられてしまう。

 ちょうどその頃、六人の少年探偵団員が、篠崎始の家を訪問することにして、近くの養源寺の前を歩いていた。 桂正一が先日、黒い魔物の跡をつけ裏手の墓地で消えてしまった話をしていると、生垣のしげみの中で人間の足が芋虫のように動いているのが見えた。 シャツとズボン下だけの二人が縛られ、さるぐつわをはめられ、横たわっていた。 一人は篠崎家の秘書今井、もう一人は出入りの運転手だった。 今井が自動車を呼びに行き、顔見知りの運転手と篠崎家に戻る途中、養源寺の門前で二人の怪漢にピストルで脅され、縛り上げられてしまったというのだ。 すぐさま、警察に連絡すると、所轄の警察署はもちろん、警視庁の捜査課長も駆けつけ、篠崎家は上を下への大騒ぎとなる。

 始を加えた七人の少年探偵団員は、大人の邪魔をしないように、独自で車の走り去った方向を聞き込み捜査してみることにした。

 一方、小林と緑ちゃんが閉じ込められた地下室には、太い管が差し込まれ、水が入ってきた。 水は六畳ほどの地下室にだんだん溜まってきて、このままでは、二人は溺死してしまう。