古今亭志ん輔の「小猿七之助」前半2023/08/03 07:08

 志ん輔は黒い着物に紫の羽織、上を向いて出て来る。 座る時、風貌が志ん生に似て来た、と思った。 新聞に、40年後、日本の一割が、外国の人になる、とあった。 日本語が公用語じゃなくなっているか。 落語は、なくなるか、ごく少なくなっている。 落語の入場料が5万円、一方、歌舞伎は30万円、きらびやかな人が来る、女は黄八丈なんか着て。

 深川相川町、網打ちの七蔵は名人、見物から声がかかる。 四角く、打ってくれ! 真っ四角に、打つ。 三角に打ってくれ! 三角にバンと打ち、引くと獲物が沢山入っている。 父っつあんみたいに、おいらもなれるかな。 大きい、丸いの、打ってくれ! バン! 玉屋ーーッ!

 姐さん、今日の川開き、いい川開きでしたね。 七さん、吾妻橋の船宿、遠州屋の抱えで七之助、すばしこいので小猿というあだ名がある。 一人船頭・一人芸者はご法度で、ふつうは相櫓、もう一人船頭が乗る。 山谷から男四人の客を乗せ、鉄砲洲の稲荷に客を上げ、おかみさんが騒ぐのに、相櫓の徳さんが大嫌いだと、浅草芸者、男嫌いの御聖天(ごしゅでん)滝野屋のお滝、七之助と二人大川へ出る。

 降らないのかねえ。 大丈夫でござんしょ。 ギイギイと櫓の音、佃で、舟歌、引けの拍子木が聞こえる。 永代の橋をくぐると、橋の上で「南無阿弥陀仏」、ドブンと飛び込む。 七之助が、竿につかまらせ、襟足をつかんで引き上げる。 男一人の身投げだねえ。 姐さん、蝋燭の芯を切っておくんねえ。 明るくなる。 お店(たな)もんだね、紺の前掛けをしてる。 気を入れてやりやしょう。 起きろ! 何で死のうとなった、話してみろ。 女か? そんな浮いたんじゃねえ。 浮いて、助かったんだ。 新川新堀の酒問屋、田島屋の若い者で幸吉、掛け取りで三十両の金を集め、芝から永代まで船に乗ったが、船の中の腰掛バクチで三十両、ペロリと取られてしまった。 姐さん、すまねえ、俺には出来ねえが、三十両どうにかならないか。 何とかなるよ。 姐さんが、こしらえて下さるそうだ、御聖天のお滝様だ。 羽織の片袖が怨みの品、イカサマバクチの相手のだ。 名うてのイカサマ師だと船頭に知らされ、金を返せと言ったら、雪駄で眉間を打たれたので、羽織の片袖をちぎった、所も名前も知っている。 今日は、俺んところに泊めてやるから。 深川相川町、網打ちの七蔵という、ブワワワワワ……。

 七さん、どうしたんだい? また、飛び込んだんでございます。 流れは早い、下げ潮だ。 幸吉の断末魔の声が聞こえた。 さっさと、帰りやしょう。