桂吉坊の「深山隠れ」下2024/02/04 08:02

 源吾が、被衣高足駄で、カランコロン、カランコロンと、戸を開けると。 お帰り、お帰りあそばせ。 首切ってちょうだいとばかり、二列に並んで頭を下げている。 二刀流で、山賊どもの首を一気に斬り落とす。 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 奥へ進むと、屋敷の扉。 頼もう! どーれ! 一夜の宿を乞う。 これはこれは、お侍さん、なぜこちらへ? 武者修行じゃ。 西の道で、若い女と会いませんでしたか? 狐狸妖怪、怪しい奴と、ぶち斬った。 若い男が二十人ばかり、おりませんでしたか? みな、ぶち斬った。

 どうぞ、こちらへ、ごゆるりとお休み下さい。 粗酒など一献。 禁酒中だ。 粗飯なりとも。 禁飯(めし)中だ。 粗茶を。 禁茶中だ。 ごゆるりと、お休みを。 お気の毒に。 ゴーーン。

 いい女だった。 ちょっと、話に行こう。 開かないぞ。 鳥の声が聞こえる。 襖は、一枚板だ、これが噂の釣り天井か。 ドン、ペシャとなる、えらいことになった。 床の間に掛軸がある、八幡大菩薩に一心不乱に願うと、掛軸が動いて、小さな穴が開いている。 顔を出すと、幾何十丈という崖だ。

 おーい、がんぐり、静かにせえ。 いつものカモを、部屋に入れた。 首を取ったら、五両の褒美をもらえる。 何人もが縄梯子で登ってくる。 五両は、わしのものだと、ヒョイと覗いたのを、エイッと斬る。 落ちてしもうた。 五両は、わしのものだ。 ヒョイと覗いたのを、エイッと斬る。 また、落ちてしもうた。 ヒョイ、エイッ! ヒョイ、エイッ! ヒョイ、エイッ! 首が、ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 女が、扉を開けたら、源吾がいた。 おのれ、妹、手下の仇と、大薙刀で斬りかかってくる。 源吾は難なく身をかわし、立ち回りとなる。 足を払うと、女は石灯籠の上にひらりと飛び乗った。 降りて参れ、裾が乱れて、しゃがんでも、見える、見えるぞ。 女が恥じらい、スキが出来たところを、斬る。

 宝蔵、宝の蔵へ、朱塗りの階を登る、宝がここにある。 侍、待ったーーッ! 御簾の陰から、白髪の垂れた、百歳近い老婆が、薙刀を手に現れた。 「わらわこそは、千年天草に棲む森宗意軒が妻、この曲輪に籠もり、千人の血を、大日如来に捧げんと、しておりしが…。 汝に見破られたのは残念無念。」 歌舞伎ならこうなる(と、歌舞伎のセリフ回しで)。 落語は、リアルで。 「アワアワ、ヤヤイチャムライ、アワアワ」、歯がないから、何を言っているのか、よくわからない。

 源吾は、森宗意軒の妻の薙刀を受け止めた。 敵わないとみた婆さん、一生懸命逃げ出した。 待てーーッ! 待てーーッ、待たんかい! 目の前に川、婆さんは、足がもつれて、転ぶ。 宝の在り処を言え! ザブザブ、ザブザブ! 婆は、川で洗濯じゃけん!